第16話

 俺たち五人は、ジェットコースターに乗った後、早めの昼食をとり、他にも色んなアトラクションを楽しむこととなった。


 笠原の提案で、最後に観覧車に乗ろうということになったとき。

 それに向かう道中で、園中が俺にさりげなく話しかけてきた。


「武藤が観覧車の中で告るらしいから、乗り終わったら、あっちから何も言ってこない限り、何も聞くなよ?」


 恐らくどんな結果になろうと、関わってくるなということだろう。まぁ、もし成功すればその場で報告してくれるだろうから、何も報告が無かったら、失敗したと見ていい。


「あー、分かった。残念そうな顔してたらそっとしてやって、嬉しそうな顔をしてたら、祝福してやればいいんだね」


「それで頼む」


 園中が頷いたのを確認してから、俺は二メートル前を歩く笠原と武藤に目をやった。二人とも笑顔で会話をしている。いかにも仲が良さそうだ。


「観覧車は笠原と武藤、俺と早川と園中で別れるか」


「分かった。観覧車の仲で、LINEとかも使っちゃダメだからな。邪魔したら、後で何を言われるか分かったものじゃない」

 

* * *


 私———笠原美月は、武藤と一緒に、観覧車に乗ることになっていた。

 今日の武藤は、私を楽しませようと、なんとかしようと必死になっている。沈黙が続かないように、何か面白い話題を頑張って探している。


 園内では、常に武藤と一緒にいた。二人で乗るものは必ず二人で乗ったし、お土産とかも二人で選んだ。


 武藤が私の手を引いて観覧車に招き入れる。その手は常時私を狙っていて、気持ちが悪いだけだった。


 扉か閉められて、空に浮かぶ箱の中が密室状態になる。この中で二人きり。


 武藤は私の正面に座ると、ニマニマという薄笑いを顔面に浮かべ、口を開く。


「笠原は、今日楽しかったか?」


「うん、楽しかったよ」


 ずっと武藤と時間を共有していては、青野を誘った意味が全くなかった。


「笠原はさ……好きな人とか、いる?」


 私に喋らせろ。


「うーん、どうかなー? まぁ、少し気になってる人は、いるかも……」


 やっぱりか。 

 私が何のために青野を誘ったと思っているのだろうか。何の意味もなく、あんな頑なに青野が来ないなら行かない、なんて言ったのか、武藤は考えていない。


「それさ———オレ……だったり、しないか?」


「は?」


 いきなり過ぎてビックリした。

 もっと何か『どんなのがタイプなの?』とか。『好きな人は同じ高校?』とか。こういうのがあるかと思っていた。


「あー、いや、なんでも無い。悪いな、変な話して。……あはは、あはは」


 残念そうな笑顔を見せた。武藤はそれ以上、私に話しかけてくることは無かった。

 それでも観覧車は回り続ける。風にゴンドラが揺れた。



【あとがき】

 次話投稿は、今日の19時です。

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