第15話

 なんとかたどり着いたその場所には、笠原、武藤、園中。俺たち二人をさっさと置き去りにした三人組が、どっかで買ったであろう、気味の悪い色をしたジュースを飲みながら待っていた。


 しかし、LINEで聞いていた状況とは異なり、三人は列になど並んではいなかった。


「あれ? なんかするんじゃないの? 列に並んでるって言ってたし」


 俺の問いに、武藤が不機嫌そうな表情で答えた。


「お前らが全然来ないから、笠原がみんなで乗りたいからって言って、途中で列から抜け出したんだよ」


 あぁ……。何ということを……。

 俺にとって、そんな心遣いいらなかった。そもそも置いていっている相手に今更すぎるだろ。


 だが、迷惑をかけたみたいなので、一応謝っておく。


「あー、ごめん。それはホントに。途中、早川が迷子になっちゃって」


「わ、私!?」


 普段はほとんど俺以外の人間がいる場所では声を上げない早川が、こうして出すのはとても珍しいことと言えた。驚いた表情もかなりレアだ。


 それだけここにいる笠原たちには、心を開いているのかもしれない。


「早川さん方向音痴っぽいもんね。納得納得」


 笠原が茶化す。だが、この状況を明らかに楽しんでないヤツが、すぐ近くに二人も存在している。武藤と園中である。武藤はきっと、笠原とアトラクションを楽しみたかったのだろう。園中は、武藤の子分みたいなものだから、二人で楽しんでもらいたいと思っていたに違いない。


 二人に広がる空気感からして、俺が悪いみたいになっている。かと言って、早川が悪いわけでもない。こうなった原因は、強いて言うなら、俺と早川を置き去りにしたお前らなんじゃないか? と、若干捻くれていることを思い始めていたときだった。

 

「よし、じゃあもっかい最後尾から並びなおすかな」


 笠原がそう言った。

 そのことについて、ほんの少しだけ罪悪感を感じた。


「おん、そうだな。みんな揃ったことだし、オレ盛り上げちゃうぞー!!」


 今日は武藤が、この場を盛り上げることに熱心だった。そうまでして、笠原に楽しんでもらいたいのだろう。


* * *


 乗ったのは、メルヘンな建物付近で見かけた、巨大なジェットコースターだった。乗ったというか、乗らされた感じだ。

 席は二人組で乗るタイプのものだ。当然のように武藤は、五人の中で最初に乗り込んだ笠原の隣の席に腰をおろした。

 俺の隣には、早川が乗り込んだ。園中はひとりぼっち。


 スタッフの「しゅぱ〜つ、しんこう!!」という掛け声と同時に動き出して、レールの急勾配に差しかかり、俺はそっと目を閉じたのだった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る