第14話

 俺と早川は、入場直後にいきなり走り出す三人に、当然のように置いていかれた。

 一番奥とか言っていたような気もするが、それがどこなのかも分からない状態だ。


「早川、詰みだ」


「うん、知ってる」


 さっき一応LINEはしたが、既読は付いていない。未だ走っているか、あるいはハブられて未読スルーされているか。


「ま、気づいてくれるでしょ、さすがに」


 走るぞと予告されていたにも関わらず、俺たちは普通についていけなくなっていた。だが、それも当たり前だ。行き先を知らないもん。


「あー、暑いなー。どうにかならんかね」

 

 近くの巨大なジェットコースターのレールを眺めながら、俺は言った。


 このまま園内を彷徨っていても、いずれ熱中症にでもなってぶっ倒れるだけだ。とりあえず建物の中、冷房のよくきいたところに行く。


「早川、あのお土産屋さんに入ろうよ。今の状況であいつらを探しても俺と早川が死ぬだけだ」


「オッケー、分かった。いいよ」


 早川の透き通った声を聞き、俺は正面のメルヘンで大きな建造物の入り口へと向かう。外から見ても、中は人がたくさんいた。


 人口密度が高くて、逆に暑そうだったが、そんなところほど冷房が効きすぎるくらいに効いているはずだ。

 俺はLINEで笠原らに、『メルヘン』と送った。


「和人くんは、何か買いたいの? こんなところに入って」


「お前俺の話聞いてたか? 暑いって言ったよな」


「あー、そういえば」


 話を聞いていなかった早川を無視して、俺は建物の中に迷わず入った。それを見て、早川も俺についてくる。

 天井高の館内は、非常にキレイな造りをしていた。テーマパーク自体のメルヘンな雰囲気を助長している。俺が早川の家に行く際に気を使うのとは、全くレベルが違った。

 そして涼しい。俺の体力がほんの少し回復したような気がした。


「ほえー、こんな感じなんだね。私、テーマパークとか初めてきたから分かんないけど」


 早川が感心したような声を出した。その時の早川の表情はワクワクしたような、希望に満ち溢れたようなものだった。きっとこんな顔ができる人間の未来は、明るいのだろう。 

 

 入ったばかりだが、笠原たちがLINEの通知に気付いたみたいだ。

 

『今列に並んでるとこ!』


 という言葉と共に、笠原が自分のいる場所を地図の写真の上からマーカーでマーク、その画像をLINEに載せて送ってくれた。


「うわ、本当に一番奥だ。こっからどんだけかかるんだ……」


 俺と早川は、猛烈な熱波を身体全身で受けながら、極めて憂鬱そうな表情で、お土産物屋から外に出たのだった。


「早川、俺方向音痴だから……頼む」


「え……そんなこと言われても……」


 俺の懸念は、絶望に変わった。

 

 

 

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