第13話

 俺たちの目的地の最寄り駅に到着したようだ。電車が停車し、俺は吊り革を手から離す。


 初めて来るところなので、俺は詳しくない。恐らく何回も行っているであろう、武藤たちに案内は任せる。

 俺は早川と並んで、武藤と笠原、そして園中の三人についていった。


 テーマパークの入場口。大勢の人で行列ができていた。それを見ただけで、テンションタダ下がりだが、笠原はそれを見て逆にテンションが上がったようだ。


「おっしゃー! 開園する九時半まであと二十分! 今からみんなテンションマックスで行こう!」


 笠原はやっぱり遊ぶのが好きなんだろうな、と思う。もしくはみんなで集まるのが好きなのか。

 日本人はみんなで何かをするのが好きなのだ。そう意味では、笠原は正常と言えた。


 だが、俺の隣で露骨に嫌そうな表情の早川はおかしいのか、と言われれば、別にそう言うわけでもない。


「オレさ、夏休みに入ったら、髪染めようと思うんだけど、お前らどう思うよ?」


 武藤が言った。どうやら染髪をしたいらしい。

 俺が通っている高校は、髪を染めてはいけないという校則がある。他にもピアス禁止。髪は目にかかってはダメで、女子ならスカートは膝下という、アホみたいなものまである。そして、バイクの免許取得、校内でのスマホ使用も、もちろん禁止である。


 日本人は個性が無い個性が無い、と言われているのは、実は高校が個性をぶっ潰している可能性すらある。


 武藤なんかは、昼休みにスマホを触り、余裕でバレて没収された。その期間は二週間らしかったので、武藤は新しいスマホを買ってしまったようだ。


 うちの高校に、基本的人権なんてものは無かった。


「私は別にいいと思うけどな、髪染めちゃっても」


 笠原が武藤に賛同する。それを聞いた武藤は安堵したような表情を見せて、


「んじゃ、終業式終わったら、早速染めてこようかな。むっちゃくちゃ派手なヤツにしてくるから、お前ら期待しとけよ!」


 この場を盛り上げるためなのか、大きな声でそんなことを言う。俺にとっては、お前の髪なんてどうだっていいんだよ、って感じだ。


「早川さんは、髪染めたりしないの?」


 すでに少し茶髪である早川に、笠原がそんなことを言った。


「え? わ、私は、このままがいいので……」


「もっと明るくしたいな、とかいう願望はないの? 私、ライトブラウンみたいにしたいなー!」


 勝手にしとけって感じだけど、残念ながら笠原は部活に入っているため、髪を染めることはできない。


 すると、辺りが突然騒ぎだした。


「お、開園したみたいだぞ」


 園中の声を聞き、俺は行列の先頭の方向に視線をやった。

 女子特有のキャピキャピした声がたくさん聞こえてくる。


「まずは、一番奥まで———走るぞー!!」


 笠原の声に倣って、武藤も、


「おおー!!」


 と言った。


 


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