第25話

 俺は笠原の家を出た後、そのまま制服を着た格好で、早川の家に行った。早川は基本的に外出は日曜日だけだし、家には誰もいないので、突然行っても問題無い……と思う。 


 俺は五階まで階段で上がり、早川の住む部屋のドアの前に立つ。


 そしてインターホンを鳴らした。ドアの向こう側から、ドタドタと慌てたような音が聞こえ、やがてそれは鍵の開くガチャという、聞き心地のよいものに変わった。


 ドアが開く。


「和人くん……。なんか、来ると思ってた」


 ひょっこり顔だけ出した早川は、儚げな笑顔をしていた。


「どうしたの……? っていうか、笠原さんとのことだよね?」


「……そうだよ」


「なんであんなことしたのかっていうの、訊きに来たの?」


「そんなわけない。以前俺に告白してくれたじゃないか。あれを忘れたと思ったの?」


「……いや、違うけど……」


 早川は困ったような顔をした。何かを悩んでいるのかもしれない。

 だが、今の俺にはどうだってよかった。


「早川、早く俺を家にあげてくれない? むちゃくちゃ外暑いんだけど」


 いつまで玄関先に立たせる気なんだろう。最近はここに来る頻度が高くなっている。もう慣れてしまったこの家に、早くあがりたかった。


「ごめん、今日はそんな話すつもりない」


「早川は、笠原にあんな嘘を吐く理由なんてあったかな?」


 あぁ———こういうことか。早川が言いたかったのは。

 やっぱり俺はどこまでもバカだ。


「私は、この関係をありのままに、嘘なんて吐かずに伝えるよりも、恋人の方が良いと思ったの」


「それは———説得力の問題?」


「それもあるよ? でも———」


「俺だってそのまま伝える気なんてさらさら無いよ。もしかしたら、早川の言った通りにした方がいいのかもしれない。現に笠原はなんか納得しちゃったし。……その通りにすれば、笠原と同じだけの情報を持ってる園中だって、納得するだろうね。口の軽そうな園中がクラスの誰かに漏らしたら、ソイツの理由にも使えるんだから」


 俺たちのことが、武藤に伝わらないようにしているのは園中なので、クラスメートに広める可能性はゼロだなと、自分で言ってから気がついた。


「……和人くん、あがっていいよ。私、話したいこと……話さなきゃいけないことが出てきたみたい」


 話したいこと。笠原や武藤のことについてだろうか。友人関係のこと。そもそも俺たちの関係性のこと。


 この中のどんな話でもおかしくない。


「それは……私の姉についてのこと」


 そういえば、早川には大学生のお姉さんがいたんだった。俺は一度として見たことはないが。

 全く知らない人の話をされても……って感じだが、とりあえず入れてもらえるだけありがたい。


 

 

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