第22話

 六限目終了のチャイムが、校内に轟き渡る。そのチャイムを耳にして、クラス全員のスイッチがオフとなった。


 皆、机に突っ伏している。


 この後の掃除当番が憂鬱で仕方がない。何故だか分からないが、笠原が俺を待っているというので出来るだけ早めに終わらせたいところだ。



* * *


 掃除は結局十五分ほどかかり、笠原をかなりの時間待たせてしまった罪悪感に駆られながら、俺は階段を下りて、一階まで行った。


 笠原は俺たちのクラスの下駄箱の前で、壁に寄りかかりながら待っていた。


「あ、青野。やっと来た。遅いじゃん」


「ごめん。掃除に時間かかった」


 事実だけを言って、俺は自分の靴を取り出して、上靴と履きかえる。


「よし、行こっか」


 笠原の声をきっかけに、俺と笠原は並んで校門を出た。

 駐輪場に行き、自転車をとる。俺と笠原は、それに跨がらずに、歩いて下校する。


「で、笠原? 今日なんで?」


「なんで誘ったか、って? そういうこと?」


「うん」


「うーん、あのねぇ……」


 すると、笠原は性格の悪そうな笑顔を見せて、俺に言った。


「私のお母さん、家にいないからさ、今日一回ウチに来ないかなー、と思って」


「は?」


「青野に、話したいことがあるの。絶対来て」


 何か大事なことを伝える場合に使う目だ。あの時の早川と同じ目をしていた。みんな真っ直ぐ俺の目を見ればなんとかなると思っているのか。


「分かった、いいよ。別に」


 俺たちはそう言ってから、無言で笠原の家に向かった。俺が避妊具を買ったコンビニの近くらしいが、どこなのかは正確に分からない。



* * *



「ほら、入って。そのまま廊下を真っ直ぐ行って、リビングで待ってて」


 俺は笠原の家に案内された。

 この間のコンビニの、本当に目の前のマンションだった。

 部屋の中は綺麗で、キッチンにたくさん食器が置いてあったり、ソファーのクッションのばらつきさであったり。ちゃんとここにいるということが分かるほどの生活感だった。


 後から入ってきた笠原に、


「あ、ソファー座ってていいよ。今からお茶出すから。後で私の部屋にも入れてあげる」

 

 そう言った笠原は、キッチンの方に行き、冷蔵庫を開けた。

 ここで、何の話があるのかは、よく分からない。でも、一つ気になることがあった。


「ほい、お茶。麦茶しかないけど、いいよね? ジュースが良かった?」


「いや、甘いものは嫌いなんだ。お茶がいい」


 人の家に来て、この早い段階で甘いものが嫌いなんて言うのは、非常にマズイな、と思った。あとで出てくるかもしれないのに。


「青野と話したいことは一つ。———早川さんとのこと」


 俺と同じだった。


【あとがき】

 次話投稿は、七月十日です。


 

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