第21話

 中庭には、生徒が多くいた。カップルで、ベンチに二人で並んでいるヤツらや、男子だけで集まっている人たち。あるいはクラスの陽キャだけの男女集団もあった。


 校内の廊下からの出入り口、そこから一番近い中庭の木製ベンチに笠原が座った。そして、ベンチを左手で叩いて、座れと合図を出してくる。


 弁当を片手に持った俺と早川は、俺を真ん中にして、笠原の座るベンチに腰をかけた。膝の上で弁当を広げていく。


 まだ、誰も食べ始めていない。


「そろそろ夏休みだけどさ、二人とも予定ある? また、遊びに行かない?」


「俺は……どうだろ。学校の課題に追われる毎日を過ごすだろうね。俺授業真面目に聞いていないから、すごい時間かかるんだよ」


「勉強会開くってのも、いいかもしれないよ?」


「勉強は一人でするものだよ。人数集めて、それで頭よくなると思ってる?」


「確実に青野が言っていいセリフじゃないよね」


 一人で勉強して成績が最悪に近い人に、言われたくないだろうな、と思った。


「早川さんは? 何か予定ある?」


 笠原は俺越しに早川を見た。早川の成績からすると、俺と同じようなものだと思うが。


「わ、私は、別に特に……何も」


 嘘吐くなよ。お前も俺と同じだろ。


「よし、じゃあ、夏休みに、三人で遊ぶ計画立てとく。それでいい?」


 まだ行くとも俺は言っていない。なんなら、課題をやらなければならないと言ったはずだが、笠原はそんなことは気にしないみたいだ。


「あんまり遠出はしたくないなー。……もう、笠原の家でよくない?」


「え? 別にいいけど? 早川さんと二人で遊びにおいでよ。たくさんお菓子出してあげるから」


 俺がそう提案すると、笠原は意外にもあっさりとそれを受け入れた。半分冗談で言ったつもりだったのだが。


「お菓子のために行くわけじゃないけど、また今度遊びに行くよ」


「早川さんも絶対おいでね。武藤と園中は呼ばないからさ。あーいう男子苦手だと思うしね」


 早川にとっては、多分笠原のことも苦手だと思う。

 でも、笠原はまだマシだ。人の気持ちが分かるから。


「次の授業遅れるし、早く弁当食べよ。お腹へった〜」


 笠原はそう言った後、膝の上に広げた弁当に、手を付けた。いかにも幸せそうな表情で、から揚げを口に運んでいた。


「あ、そうだ青野。今日、一緒に帰ろうよ」


「……は?」


「青野掃除当番でしょ? 遅くなると思うし、終礼終わったら、下足ホールで待ってるから。いい?」


 身を乗り出して、俺の顔を覗き込んで確認する仕草をする。

 笠原の顔がすぐそばにあった。

 笠原は、俺に笑いかけた。



【あとがき】

 次話投稿は、明後日です。

 

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