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佐武ろく

それでも僕はこれかが好き

     僕は小説を書くのが好きだ。物語を想像することが好きだ。


中学生ぐらいからテストの空き時間とか授業中とかに想像上で物語を作るようになった。初めは教室とか学校とか現実世界を舞台としたもの。不審者が入ってきてそれを自分が撃退するとか男の子なら1度はしたことがあるんじゃないかな?そんな類の物語を暇つぶしで想像してたけど映画やドラマ、アニメなんかを見ている内に別の展開を想像するようになった。僕だったらこうするとか。こういう展開も面白いと思うとか。そんなことをしている内にある時ふと思ったんだ。じゃあ自分で自分が望む展開の物語を作ればいいって。それから頭で想像を膨らませては小説サイトに記録として残し続けた。本当にただの趣味として。ただ楽しいからやっていた。だけど大学に入学し、高校の時より就職がすぐそこまでやって来た感じがした時に思ったことがある。


『特にやりたいこともないし、これで食べていけたら楽しそうだな。でもプロなんて...』


自分には無理だと思いつつもその未来を想像してしまって心のどこかでなりたいって願うように思ってた。それから物語を紡ぎながらもしかしたらって思うようになった。その証拠にワンチャンスを求めてコンテストなんかに何度か応募した。結果はダメだったがそうだろうと思ってたしこれに賭けていたわけでもなかったから別に落ち込むこともなかった。だけどそれはまだ大学生活中の趣味だったからだろう。そして大学4年生。


「お前、就職先決まったの?」


友達と昼食を食べているとふと訊かれた。実はまだ就職先が決まっておらずしたいこともなかった。


「いいや。したいこともないし。てきとーにバイトでもしようかなって考えてる」

「まじで?どっか適当に就職すりゃいいじゃん」

「それも考えたけどさ。したくもないことで会社に勤めたら毎日毎日、『あぁー明日も仕事か嫌だなぁ』って思いながら寝ることになりそうだし」

「それってバイトも同じじゃね?」

「でもバイトの方が辞めやすいしその分、気分的に楽じゃん」

「ふーん」


少し見栄を張って余裕そうにしてたが内心は結構焦ってた。と同時に僕にはプロを目指す以外に望む道がないのかもとも思い始めていた。だからもっと読まれるようないい評価をもらえるような流行りに乗った物語を書こうと頭を働かせた。途中だった作品を全て横に置き一点集中した甲斐もあってか作戦は結構うまくいきまだまだ数字は少ないけど自分の中では圧倒的に多いPVが付き評価がもらえた。正直嬉しくて文字数は無いけど毎日投降した。最初の頃は投降する度に小説がフォローされたし評価が増えていった。今までそんなことなかったから嬉しくて嬉しくて。


「こんなに読まれてる。またフォローされてる」


流行りってすごいと思いながら嬉しさのあまり数字はそこまでだったにも関わらずプロが近づいてきた気がした。


『どういうキャラが望まれてるのか。主人公との関係性はどういう感じがいいのか。ハーレムっぽくした方がいいのか。女性キャラが多い方がいいのか。どんな展開をしていけばもっと読まれるか,,,,』


その物語のことを考える時にいつもついてくるのが数字だった。そんな風に考えながらコンテストの文字数まで書き終えた時にふと思ったことがあった。


「これでコンテストに応募できる。だけどもしダメだったら?まだ途中だけど続ける意味あるのかな?文章が悪かった可能性もあるけどストーリーや展開が悪い可能性もある。プロを目指すなら落ちた作品は切り捨ててまた新しいのを作った方がいい?」


それら疑問は今までその作品に注いできた時間がコンテストがダメだった場合に無駄になるんじゃないか?と思わせた。それと同時にこういう疑問も浮かんできた。


「この物語を考えている時って楽しかったのかな?」


今まで自分の為に自分が楽しめるような物語を考えてきた。投降はしてたけどあくまで自己満の為のもの。だからこそマイペースに書けたし考えれた。だけどこの作品はどうだ?多少なりとも自分が望む世界観やキャラ設定をしてはいたが大部分が他が望みそうなものを考えていた。確かにそれがPVや評価で目に見えて結果として出れば嬉しかったがそれらが目に見えて減ってきたら考えるのも怠くなってたし「やらなきゃ」って気持ちでやってた。まるで学校の宿題や課題みたいに。その時、やっと気が付けたのかもしれない。


「確かにそういう数字をモチベーションに頑張るのもいいかもしれないけど僕は合わない。自分のペースで適当に自己満がやるのが一番楽しめる」


自分の好きなように書いて数字が後からついてきている人達も大勢いることは理解しているしそういう人達のことは純粋に尊敬する。プロというのは対価をもらうだけの価値を提供しなければならないしそうなるまで険しい道のりを歩まなければいけないだろう。だけどあまりにも険しすぎて早く抜け出したいって思い過ぎて楽しむことの優先順位が下がっていくなら。その険しい道を進むことで好きだったことが嫌になるなら楽しめなくなるならその道は僕には合わない。それなら自己満でいいかもしれない。根性がない?そんなんでプロとか甘い?色々言われるかもしれないけど、好きを嫌いに変えてまでなるプロに価値はあるのだろうか?険しい道を進みながら好きを好きでいられる人は強くてスゴイと思うし尊敬する。プロになれるならなりたいし目指したいとは思うけど1つだけハッキリしていることがある。


例えプロになれずとも誰かに読んでもらえなくても評価されなくてもそれでも、それでも僕は物語を想像し紡いでいくことが大好きだ。

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