第13話
ダンジョンに行く為の装備を買う為にダンジョンへ行こうと決意した僕は、その前にテミスへお礼を言わないといけないと教会へと向った。
ルッカには二つの教会がある。
一つはメシア派の教会。
もう一つはシンラ派の教会だ。
メシア派の教会が円柱やドーム、アーチなんかが用いられ、全体的に角が少ない建物なのに比べ、シンラ派の教会は全体的にゴツゴツと角張っていて、背が高いのが特徴だ。
ヴァンレイン共和国には国教が定められてないので共存してるけど、周りの帝国なんかはどちらかを選んでそれ以外の宗派を排除したりしているみたいだ。
興味がないのであまり詳しく知らないけど、昔にいた偉い人がクーゼ教って宗教を創ったらしい。
その人が書いた経典には世界の危機を救う救世主が現われると預言されているそうだ。
その救世主は人か? 神か?
人だと思った信者達はメシア派を作り、神だと思った人達はシンラ派を作った。
そうしてその二つの宗派が生まれ、今に至るわけだ。
僕はメシア派の丸っこい教会を見上げた。通りを挟んで反対側にはシンラ派の教会がそびえ立っている。どちらも白と青を基調にしていた。
(教会ってあんまり入ったことないんだよね……。そもそも神様を信じてないし。えっと、どこから入ればいいんだろ? 勧誘とかされたらやだなぁ)
とか思いながら間の道路の真ん中に立っていると、前後の教会から白い修道服を着たシスターと黒い修道服を着たシスターがぞろぞろと出てきた。
「ええ? なに? なにごとなの?」
僕が動揺していると両側の入り口から顔がそっくりな美人が現われる。どちらも聖母のような微笑みを浮かべ、溢れんばかりの大きな胸をたぷんと揺らしている。
後ろにシスターを従えた白い方が黒い方へ言った。
「姉さん。その子はわたくしの教会に来ようとしていたのよ。ちょっかいをかけないでくれるかしら?」
「あら姉さん。人を救うのに白も黒もないわ。いるのは神だけよ」
黒い方も同じ声、同じ仕草をした。そっくりに編み上げられた灰色の髪がふわりと揺れる。
「え? なに? 僕ですか?」
「そうよ」と二人の声が重なった。
(なんか、面倒そうなことに巻き込まれてる?)
「我がメシア派教会ルッカ支部の教徒数は今現在で九千九百九十九人なの」
「それは我がシンラ派教会ルッカ支部も同じよ。一万人目の信者を手に入れるのはどちらか?」
「あなたは神と人ならどちらを信じますか?」
「……え?」
僕は間抜けな声を出した。黒い方がニコリと微笑む。
「当然神ですわよね? 偉大なる神はきっと我らを助けてくれますわ」
「いいえ。見えない神より確かに存在する人の方が信じられるわ。救世主様はすぐそこに」
白い方もニコリと微笑んだ。
「人には邪念がある。しかし神にはそれがありません」
「人には触れた時の温かみがある。しかし神にはそれがありません」
二人は僕の方へやって来る。
「ちょ、ちょっと……」
「闇を照らす神のご加護か」
「闇を切り裂く救世主様の登場か」
二人は僕に顔を近づけ、片腕ずつを抱きしめて胸の谷間に腕質としてとり、同時に言った。
「あなたはどちらを信じますか?」
(……なにこれ?)
僕はパニック状態だった。その割に二人の胸元にある左右逆のほくろには目がいった。
(神? 人? 白? 黒? 胸? ほくろ? もうなにがなんだか分からない!)
「ぼ、僕は神も人も信じませんッ! だって! どっちも僕らを助けてくれなかったからッ!」
気付くと僕は叫んでいて、二人の胸は僕の両腕から離れていた。
二人はニコリと笑った。
「神を信じない不信心者には裁きが下るでしょう」
「人を信じない希望無き者には絶望が押し寄せるでしょう」
「ではわたくしはこれで」とハモると二人はシスター共々それぞれの教会に帰っていった。
「…………………な、なんだったんだ?」
僕は力が抜けてその場にへたり込んだ。するとそこへ一人の少女がてくてく歩いてきた。
僕の後ろで立ち止まると少女はスカートを手で押さえ、反対の手を僕に伸ばした。
「大丈夫ですか?」
「え? あ! テミス! 会えてよかった」
僕が喜ぶと、テミスは呆れたような微笑を浮かべた。
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