第12話

「……高い」

 翌日、町のメインストリートに来た僕は何軒も並び立つ武器屋のディスプレイを見て頭を抱えていた。

 一番安いナイフでも戦闘用は三千リスタもする。剣なら五万リスタからだ。

 僕の所持金はたったの九百二十リスタ。お話にならなかった。

 なにより欲しいスロット付きの武器は更にべらぼうな値が付けられている。

【魔石】と呼ばれる黒く透き通った石を嵌めるスロットが付いている武器はトラベラーなら是非持っておきたい装備だった。

 魔石はダンジョンでのみ手に入る代物で、強いクリーチャーを倒したり、奥深くを探索していると手に入ることがあるみたいだ。

 魔石をスロットに入れると武器や防具、場合によっては使用者も強化される。ダンジョンを攻略する気なら、せめて全身魔石付きのスロット装備で揃えたいものだ。

 魔石も売っているけど、これまた高くて手が出なかった。

 ガラスを溜息で白く曇らせると、武器屋から女の人が出てきた。

 全身スロット付きの装備で揃えている。腰に差した二本の剣にも魔石が煌めいた。

(すごい豪華……なんだけど……)

 猫耳に黒いツインテール。ここまではいい。

 全身を黒い鎖帷子を纏う。百歩譲って防御的にこれもいい。

 でも大きな胸の谷間と腋が空いてるのは理解できなかった。

 胸にはアーマーが申し訳程度に付けられていて、腰には鉄のミニスカート。足下はブーツ。手には白い手袋……。

 はっきり言うと恥ずかしい格好だった。それでも女の人は自慢げに胸を張っている。

「タモイ。これが今流行の装備なんだな? 可愛いやつなんだな?」

「おう。そやで~。イケイケやで~。アテにゃんが着ると可愛えなぁ~」

 タモイと呼ばれた店主らしい女性はつなぎ姿でハンマーを持ってそう言うけど、こんな装備は見たこともない。

 アテにゃんさんは服装を除けばきりっとしてて綺麗な人なのに、肝心の装備が滅茶苦茶だった。そうとも知らずに猫耳をピクピク動かせて喜び、僕を見る。

(うぅ……。あんまり関わりたくないなぁ……)

「なあ少年!?」

(来た……)

「は、はい……」

「この装備は可愛いか?」

 僕が困っているとタモイさんがアテにゃんさんの後ろで睨んでくる。それがあまりにも怖くて僕はコクコクと頷いた。

「はい……。とっても可愛いです…………」

「そうか! ではさっそくこの装備でダンジョンへ行ってくるとしよう! 待ってろよ! クリーチャー共! アルパード家復興の礎としてくれるぞ!」

 そう言うとアテにゃんさんは勢いよく町を駆け抜けていった。

 町人はその格好を見て呆れ、驚き、恥じらった。タモイさんはケラケラと笑っている。

「あ~おもろ。ほんまアテナはアホやなぁ。そこが可愛いねんけど」

「えっと、あのキャトロフの人、あんな姿で町を走って大丈夫なんですか?」

「さあ? べつにうちが走ってるわけやないし。ええんちゃう?」

 ええんか? と首を傾げる僕も知らずに猫の獣人であるアテナさんは見えなくなった。

「でもすごいですね。あの人の装備。どれも高いのばっかりだ」

「ああ見えてもアテナはアルパード家の一人娘やからなぁ。最近調子が悪いとは言え、名家の娘に安もんは着せられんやろ」

(名家の娘を騙してあんな痴女みたいな格好させていいのかな?)

「そんで坊ちゃん。ずっと中見てたけどうちになんか用か?」

「え? いや、武器が欲しいなあって……」

「でも金がないと。仕方ないなぁ。一応ローンは組めるで。トイチやけど」

「トイチ? なんですかそれ?」

「冗談やって。年利は十パーからや。自分ライセンスあんの? 何年目?」

「あ、ルーキーなんです」

 僕がライセンスを見せようとすると、タモイさんは顔を険しくした。

「ルーキー? なら話にならんな。死ぬ可能性が高いルーキーはローン組めへんで。うちだけじゃなくてどこでもな」

「そんなぁ……。そこをなんとか……」

「あかんあかん。武器が欲しいなら現生出すんやな。ダンジョンで稼いできい」

「そのダンジョンに行く為の武器がないんですよ!」

「知らん。石でも拾たら?」

 タモイさんはそう言うとバタンとドアを閉め、ガチャリと鍵をした。

 僕はうな垂れ、他の店でも同じ扱いをされてさらにうな垂れた。世の中貧乏人に厳しすぎるよ。

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