第11話
部屋から出ると、階段の手すりにリナがもたれて座っていた。
パジャマ姿で首からタオルをかけている。髪はしっとりと濡れていた。
どうやらお風呂に入っていたらしい。
僕も下に降りてお風呂に入ろうと思っていたけど、俯いたリナに裾を捕まえられた。
「……あたし、怖いよ…………」
「……うん。僕もだよ」
リナが顔を上げ、泣きそうな顔で僕の目を見た。
「なら――」
「でも、誰かがやらないといけないんだ。このルッカだっていつまでも安心して暮らせるかなんて分からない。それはあれを一緒に見たリナが一番知ってるだろ?」
リナは再び頷いた。
「……その時はまだ皆で逃げればいいよ」
僕がなるべくゆっくり腕を振ると、リナは裾から手を離した。
「今誰かがやらないと、その逃げる場所すら僕らは失うんだ」
階段を下りながら僕はぼそりと呟いた。
「…………ミストを頼む」
振り向くと階段の上でリナが座り込むのが見えた。幼馴染みのすすり泣く声はお風呂に入っても耳に残ったままだった。
この世界ではなにをするにもダンジョンは僕らの生活に干渉してくる。正直うんざりすることも多かった。
生きて帰る。皆を守る。
この二つを両立するのは簡単じゃない。とにかく僕には全てが足りなかった。
お湯から腕を出してみると、情けないほど細かった。
(今のままじゃ、なにもできない。今のままなら、僕はまた……)
「……………くそ」
拳を握ると水面に映る僕の表情に悔しさが滲んだ。
でもこれをそのままにしていたらどうにもならない。
まずは疲れを抜いて、しっかり寝て、明日になったら町に行こう。せめて武器くらいは揃えないと。
とにかく色々あって、疲れて、こうして僕のトラベラー初日は幕を閉じた。
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