第7話

「あ。そうだ。スミレさんはテミスってセーバー知ってますか? 今日行ったダンジョンでクリスタルを育ててくれた子なんですけど」

「テミスちゃん? う~ん。聞いたことがあるような。ないような」

 スミレさんは左右に首を傾げる。そして「あ♪」と手槌をつき、手元の資料をめくる。

「そうそう。この前うちに来たシスターがそんな名前だったわね。ええと………………あった。テミス・メシアチルちゃん。十三歳。先月からセーバーとして登録されているわ。なんでも軍で働きたいそうだけど、年齢的にギルドオンリーになった子よ。シルド君と同じね」

「そうだったんだ……」

 共和国軍に入れるのは十八歳からと決まっている。それも男だけだ。セーバーは適正があるから女しかいないけど、やっぱり年齢制限は同じだった。

(それにしても十三歳でセーバーになれるなんて。天才って奴かな?)

 僕はギルドを見渡した。テーブルで談笑していたり、張り出されていたダンジョン攻略の募集を見ているそのほとんどが女の人だ。

 男は軍に入った方が生活が安定するし、なにより尊敬される。十八歳を過ぎてギルドに入っている男はあまり良い目で見られないどころかバカにされることも珍しくない。

 ここにいるトラベラーの多くが僕より年上かいいとこ同い年くらいだ。ギルドに入る条件はライセンスを持っていることだけだから当たり前だけど。一三歳はかなり若い。

「若いのにすごいなぁー……」

 僕がしみじみとテミスの凄さを実感していると、スミレさんが笑い始めた。

「シルド君がそれを言うと面白いわねえ~。まあでも、セーバーには感謝しておいた方がいいわ。なにせ彼女達がいないとあなた達トラベラーはあっという間に死屍累々なんだから♪」

「ですね。今日でそのことが身に染みました。今まではセーバーなんて頼らなくてもなんとかしてやるって気持ちだったんですけど」

「あらあら。男の子ねえ。みんなそう言って死んでいくんだけど♪」

(……なにも言い返せない)

「ところで今日の成果はゼロだったの?」

「あ、いや、手ぶらじゃ帰れないんで、もう一度エリア1を探索してきたんですよ。少ないですけど日雇いの仕事に比べたら悪くないです」

 僕は小銭の入った財布を取りだした。巾着袋の中にはさっき素材屋で戦利品を売ってきた分が入っている。締めて二千四百リスタ。二時間でこれは随分良い。

 するとスミレさんは嬉しそうに笑って受け付けの奥から袋を取りだした。

「はいこれ♪ お姉さんから初仕事のご褒美よ♪」

「わあ! なんですか?」

 ガサゴソと開けて見ると中身は便箋とペンとインクだった。

「遺書セットよ♪」

「…………あ、ありがとうございます」

「どういたしまして♪」

 スミレさんの笑顔を見ているとからかわれているのか本気で想ってくれているのか判断に困る。なにはともあれ、それだけダンジョンは危険なんだ。

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