一章 名もない洞窟

第6話

 ダンジョンから歩くこと五キロン。小さな村をいくつか通過して、僕は町へと戻った。

 夕日が眩しいここは城下町ルッカ。

 東に見えるマズレア火山帯から取れる白層岩を利用した白い家々が並び立つ。

 田舎から出てきた僕にとって、ルッカはなんでも揃う魔法の町だ。

「えっと……。あ、いた。スミレさん。ちょっと聞きたいんですけど」

「あらなあに?」

 ギルドで受付嬢をする右目に眼帯をつけた髪の長いお姉さん、スミレさんを見つけた僕は駆け寄った。スミレさんは頬に手を当てて小首を傾げる。

「その、僕今日死んじゃって……。それでギルドにはなんて報告したらいいんですか?」

「死にましたって言えばいいのよ♪」

(相変わらずスミレさんは笑顔ですごい事を言うなぁ)

 スミレさんのスーツは木と石で構築されたギルドによく似合う。スタイルも抜群だ。

「えっと、じゃあ死にました」

「は~い♪ 死体一丁入りま~す♪ ま。言わなくてもライセンスに自動で刻印されるけどね」

 スミレさんはニコニコ笑いながら報告用紙に記入する。

 僕は苦笑いを浮かべるしかできない。

「それにしてもよかったわねえ。ちゃんと戻って来られて」

「あ。やっぱりそうですよね……」

「ええ。いつも口酸っぱく言ってるでしょ? ソロの場合エリア2以降では生還率七割。生存率二割って。ななにーよ。これからも一人でやるつもりならちゃんと覚えておいてね」

「はい……。気を付けます……」

「でも残念ねえ。初日で死抗者になるなんて。これで絶死者の夢は潰えちゃったわね」

「そうなんですよ……。僕も金のリング持ちになりたかったんですけど……」

 僕はガックリと肩を落とした。

 トラベラーには二通りの呼び名がある。一度も死んだことのない絶死者とセーブポイントから帰還した死抗者だ。

 絶死者はトラベラーからも尊敬され、生還数が十を超えるごとにギルドから金のリングを贈呈される。つまりリングをたくさん持っている人は凄腕ってわけだ。

 僕の憧れるヴァンレイン共和国軍のエース、マサムネさんも絶死者で、既に十数個のリングを持っているとか。だけど淡い夢は儚くも消え去ってしまった。

(まあ、生きて帰って来られただけでもいっか。死んでるけど)

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