第3話
「出口はどっちですかああああぁぁ!?」
当然答えは返ってこない。
他のトラベラーを頼ろうにもここみたいな小さいダンジョンは人が少なかった。
大きいダンジョンにはレア度の高い素材が取れるけど、小さなダンジョンではほとんど手に入らないからだ。要はあまりお金にならない。
(それでも一組くらいいてもいいでしょうがぁ!)
心中不条理なキレかたしながらも僕はダンジョンを駆け巡った。
後ろを追いかけてくるクリーチャーはどんどん増えていき、行列を作っていた。
「あ、そうだ。マップ買ったんだった」
町の道具屋で地図を買ったのを思い出し、走りながら腰の鞄から取り出してみる。
「……で、ここはどこ?」
肝心なことが分からなかった。目印らしいものも見当たらない。
そうこうしている内にゴブリンの投げた石が持っていた地図に命中し、びりっと破れた。
「ああっ! 五百リスタもしたのに! くそおぅ!」
僕は自分の体力がどんどん減っていくのを感じていた。一方のクリーチャー達は元気だ。ぎらついた目で涎を垂らして僕を追ってくる。
「僕を食べても美味しくないのにぃっ!」
とかなんとか言っている間に闇が濃くなる。持ってきた光る虫、【ライトバグ】じゃ辺りを照らしきれない。
(……これってもしかして奥深くに来てるよね? エリア3に向ってる?)
泣きたくなりながらも足を止めたら殺されて食べられる。いや、それは良いとしても……。
僕はトラベラーの証であるライセンスを取りだし、後ろに張り付けた【護符】を見つめた。
「……これだけは死んでも守らないと」
(最悪の場合は…………)
ゴクリと唾を飲み込んで僕は震えながら覚悟を決めた。
実はもう一つ武器を持ってきている。ナイフだ。いざという時はこれを使うしかない。戦う為じゃなく、助かる為に。
そこで僕はバッグに入れてきたある物の存在を思い出した。それを取りだし、足下に叩き付ける。
持ってきたのは煙玉。しかも匂いが強い為、鼻の良いクリーチャーも攪乱できる代物だ。
煙の中、岩陰に隠れた僕はクリーチャーの一団をやり過ごすことに成功した。
「助かった……」
僕はホッと胸を撫で下ろした。とにかく隠れながらエリア1に戻るしかない。あそこまで行けばなんとかなるはずだ。
安堵しながら慎重に立ち上がった僕だけど、後ろで括った長い金髪が積み重ねた石に引っかかったらしく、カラカラと音を立てた。
ゾッとした。
すぐにでもクリーチャーの軍団が引き返してくる。そう思った僕は体を硬直させた。しかし、予想に反して足音は遠ざかっていく。どうやら聞こえてないらしい。
再びの一安心。どうやらまだ神様は僕を見捨てたわけじゃないらしい。信じてないけど。
ふーっと息を吐いた僕は今度こそ出口を探すことにした。
その一歩目だ。ゴトゴトと音がする。どこからだ?
よく聞くと足下からだ。音は揺れに代わり、遂には靴の下の地面に穴が開いた。
「今度はなにっ!?」
びっくりして後退る僕の目の前に現われたのは筋骨隆々のモグラ【ディグダロス】だ。
大きなスコップを持ったディグダロスは僕の倍近いサイズがある。
『フー……ッ! フー……ッ!』
怒りで充血した目。口から出る息は殺気立っていた。
「……あ。もしかして僕が上でうるさかったとか?」
『モガアアアアアアアアアアアアアァァァァッッ!』
どうやら正解らしく、巨大なディグダロスはスコップを振りかぶる。筋肉が盛り上がるのを見て、僕は咄嗟に棍棒を両手で持って掲げた。
(ガードしてからまた逃げよう。この体じゃ持久力はなさそうだし……!)
戦略を決めた僕にディグダロスは容赦なくスコップを振りかざした。
僕はそれを見事に受け止めた。
そのつもりだった。
しかし結果的に振り下ろされたスコップは拾ってきた棍棒を真っ二つにし、その下にあった僕の肉体はぺしゃんこに潰された。
僕の肉体は万歳した腕以外全てが肉塊になった。
一瞬のことで走馬燈すら見えない。
さっきまで明確にあった僕の意識は吹き消された蝋燭の火みたいに消え去った――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます