第2話

 それから五年後――

 僕はダンジョンの中にいた。

 今日で僕は十五歳になった。ダンジョン探索を許されるライセンスが得られる年齢だ。

 ライセンスを持つ者を『トラベラー』と呼ぶ。

 トラベラーの目的はダンジョンの攻略だ。

 ダンジョンにしかないアイテムを拾ったり、クリーチャーを倒して素材を採ったりする。

 それを街で売ればお金になるし、武器や防具を強化できたりもする。

 そしてなにより最深部にあるシードだ。ダンジョンを生む種を破壊すればダンジョンは崩壊する。

 ダンジョンの大きさや難易度によってシードにかかっている懸賞金は違うけど、破壊できれば大金を手にできる。それを目指して一攫千金を狙うトラベラーも多い。

 人類の生活圏の八割を奪い去ったダンジョンだけど、謎は多く、シードがどこから来たのかさえも分かっていなかった。

 分かっていることと言えばダンジョンは増殖するってこと。

 そしてどんどん大きくなるってことだ。

 あとダンジョンにはいくつかのエリアに分かれており、奥に行けば行くほど出てくるクリーチャーは強くなるし、地形も複雑で危険になる。

 洞窟の中でもまだ陽の光が入るエリア1。

 ここで出てくる小さなクリーチャー、【スライム】や【ウィスプ】なんかは簡単に倒せたり、追い払えたけど、奥に入っていくとそうはいかない。

(やっぱりパーティーで来た方がよかったかな? でもルーキーの僕と組んでくれる人なんてそういないし……)

 僕の装備は木の棍棒。あとは麻の服の下にチェインメイルを着てるだけだ。お金がなくて剣すら買えなかった。だけどダンジョンでクリーチャーを倒して素材を剥ぎ取れば町で売れる。最初は棍棒で戦うしかない。

 それでも暗くて転がっている岩も大きくなるエリア2に入ると早くも限界を感じた。

 僕と同じような棍棒を持つ【ゴブリン】の群れや魔術を使う【イエロースライム】。動く人骨である【ワイト】なんて立派な剣を持っている。

 攻撃魔術の使えない僕としては一体を相手にするのが精一杯だ。

(初日だし、一度帰って立て直そう。少しだけど素材も手に入ったし)

 僕はベルトに付けたバッグを開いて確認した。

 鉱石やスライムの核などいくつか素材が入ってる。剣を買うには足りない。でも危険を目の前にすると持ってきた覚悟が萎んでしまった。

 帰ろう。そう思い引き返そうとした時だった。

 靴の下でなにかがむにゅっと形を変えた。不思議に思って見てみるとそれは尻尾で、その先にはトカゲ型のクリーチャー【ヤモリザード】が牙を見せて怒っていた。

『シャアアアアアアアアッッ!』

「うわあああああああああああぁぁぁぁっ!」

 威嚇に驚いた僕はつい大声を上げてしまう。それを聞いてエリア2にいたクリーチャーが一斉に僕の方を向いた。

(……やっちゃった)

 捕まったら即死の鬼ごっこが始まった。

 僕はとにかく逃げた。

 入り組んだ洞窟内を滅茶苦茶に逃げた。そのせいで出口のあるエリア1がどっちの方向か分からなくなった。

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