5

「ちょっと、話、聞いてるんですか?」


 シイナは僕の方をにらむように見ていた。いけない。少しばかりぼうっとしていたようだった。


「ああ、ゴメン、何だっけ」

「ほんっとにもう!」


 シイナはひどくご機嫌ナナメなようだった。しかたないだろう。僕だって疲れてるんだ。

「センパイ、そういうとこありますよね。なんかぼーっとどっか見てると思ったら、全然カンケーないこと考えてるの」

 そうかもしれない。僕は自分を外から見たことがないから分からないけど、確かに考え事をしているとき、僕はどこか遠くを見ているように見えるかもしれない。


「いや、ちょっとね、考え事をね」

 僕は他愛のない言い訳をしたつもりだったのだが。

「もう、知りません。勝手にしてください」


 シイナは、ひどく怒ったようだった。わざと、ふいと顔をそむけて、そっぽを向く。僕はそれでも懲りずに、怒ったところもかわいいな、などと思っていたのだった。

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