2

「あなたが望むのは、未来? それとも過去かしら」

 私が店に入るなり、魔女は言った。


 なるほど評判どおりである。私がこの店に来るということも、彼女はあらかじめ知っていたのかもしれない。

 それならば話が早い。


「私は……過去だ。過去を望むよ」


 私が答えるまでもなかったのだろう。魔女はにやりと笑うと立ち上がった。


 その手には、奇妙な水の玉。中には何か赤いものがある。何だろう。

 目を凝らして見ると、それが金魚であったことは容易に分かった。そして、それが金魚であったことは、目を凝らさずともいずれ分かることであった。


 魔女の持つ水の玉から、2匹の真っ赤な金魚が躍り出た。金魚はまるで水の底であるかのように空中に飛び出すと、私の周りをぐるぐると回り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る