2-3 不思議なおばあさん
僕らのいる場所、
一方で由芽故駅前は都心バスの通過地点だったり、土地が安価ということもあり、有名な大型デパートやテレビ局、高層マンションなどが建っていた。都心へ一本で行けるという立地が、大学生やサラリーマン、主婦には人気なのだ。
と、聞きかじっただけで僕は駅前まで行ったことがない。欲しいものは商店街で揃えることができるからだ。必要なものを探しに、一人で行くか姉さんと買い物ついでに出かけている。
だからこうして家族以外と買い物に出かけることは初めてだった。
「ようやく来たか」
「ここでなにするの?」
「武器の調達だ。もし兵士とやりあうんなら素手じゃどうしようもないからな」
こっちに来い、と言わんばかりに顎を突き出しながら首を横に振った。
振り返って先を歩く俊也の後をついていった。
「そういえば、ウサ公どうした?」
俊也は首だけ後ろを向きながら話しかけた。
「先に裏山に寄って、留守番を頼んでおいた」
「まあ人に見つかったら結構めんどくさいしな……」
再び正面を向きなおし、少し歩いた先で立ち止まる。店に体を向けて看板を眺めている。
「べびだんだん?変わった名前の店だね」
「この商店街では古株の一つだ。入ってみればわかる」
入る前から老舗であることは感じていた。経年劣化した木造の家、今時珍しいガラス付きで引き戸の玄関。看板も濁点の辺りが錆びていて、家の壁には破れたままのポスターが貼ってある。
俊也に勧められるまま、戸を開けて暖簾をくぐる。
「うーっす」
俊也も後から店の中に入ってくる。家の中はおもちゃや古着、見たこともない鎧や剣が飾ってある。しかし一番目に入ってきたのは店番をしているおばあさんだ。レジのところで正座をしている様子が、圧倒的異質感を生み出している。
「いらっしゃいまちぇ。お客ちゃまでしか?」
店奥の方からおかっぱの少女が近寄ってくる。
「なにか御用でしか」
「ああ、この辺りの商品を買いたいんだが」
俊也は自然に少女と話し始めており、僕だけこの状況に取り残されていた。
「危ないことに使うつもりでしか」
「違げぇよ、劇で使うんだよ」
「ん? 劇で使うの──むぐぅ」
声を出したところで俊也に口をふさがれてしまった。幸い鼻は塞がなかったので呼吸はできるみたいだ。
「とにかく、この三つでいいわ。よろしく」
「ちょっと待つでし」
俊也が見繕った道具を子供ながらに一生懸命取り出す。幼いながらも一人で手伝っているのか。あのおばあさん何のためにいるんだ? と気にしていると、少女は道具を台車に乗ったかごに入れて差し出す。
「毎度ありでし」
「代金、ほらよ」
俊也は財布からお金を出し、少女ではなくおばあさんの前に置いた。道具を抱えて壁にぶつからないようゆっくりと店を出ていく。
僕も後をついて行きながら出ようとする。ふと後ろを振り向いた瞬間、高速でおばあさんがレジを打ってお金をしまっているのが見えてしまった。気のせいかもしれないが、目も合った気がする。さっさと店に出よう……。
「さ、これで武器は買えたぜ」
「それ全部使うの?」
俊也は右腕に木でできたハンマーとスチール製の剣を抱え、左肩に大剣を乗せていた。
「全部は使わないけどよ、どれが使えるかわからないだろ」
「確かに、試しに練習してみればいいのか」
「そういうことだ。変なのに絡まれないうちに裏山に行くぞ」
右手で剣とハンマーを渡し、再び俊也に先導されながらあの場所へと向かった。
路地裏を抜け、住宅街から離れたところにそびえ立つ鳥居は荘厳な雰囲気を醸し出していた。
鳥居をくぐり、武器を抱えながら森の轍を歩いていく。緩やかな坂だが、意外と武器が重くてきつい。勉強も得意ではないが、体力もないのかと改めて実感した。
奥へ進むと木々に囲まれた場所に出る。目の前には不思議な機械、コロポンとウサムービットが僕たちを待っていた。
「ようやく来たのね。それにしても物騒なもの持ってるのね」
「武器は必要だろ。ほらお前はどれ使う?」
「え? そうだな……」
俊也は大剣を地面に突き立て、手を柄の上に置いて休憩していた。
ちょうど持っていた武器を見てみると、右手には剣、左にはハンマーがある。
僕から生み出された内なる力、ジアースは長剣を振り回して戦闘していた。剣を使いこなすことが出来れば、あの力をより引き出せるのかもしれない。
「これでいいかな」と剣を掲げながら眺めていた。
「そうか、じゃあ俺はそっちでいいかな」
俊也は僕の左手を指さし、くれ、と手のひらを見せながら手前に仰いだ。
持ってたハンマーを渡すと、少し距離を取る。こなれたように前、横に振りかぶって見せた。
「なかなか使えるじゃねえか。カルマ、お前もやってみろよ」
ハンマーを肩に担ぎ、僕に剣を振るうよう勧める。
試しに剣を振ってみる。縦、縦、縦……。
「いや、縦ばっかじゃなくて、横とか振り上げとかあるだろ」
「剣を振るなんて初めてだし……」
「まあしゃーねぇか。あっちの世界で剣士の一人二人いるだろうし、手本でも見せてもらえばいいだろ」
「というか、あっちの世界に行ったら捕まるんじゃない?」
「あ……」
確かに、僕らは王様と勇者に歯向かい、脱獄したうえ彼らと戦った。おそらく国中に目をつけられているだろう。
「だけど、またあの場所にいけるとは限らない」
「テープレコーダーは再生できなかったんだよな」
「もう一度、ダイヤルを回したら出てくるかな」
「ダイヤル?」
ウサギさんは不思議そうに首傾げる。
僕はコロポンの前にしゃがみダイヤルを回してみる。しかし、固くしまっていて動かすことが出来ない。
「あれ、動かせないや」
「あのーこの機械なんなんですか?」
「コロポンだ。金いれるとおもちゃが出てくるっていうやつ。おもちゃの代わりにテープが出てくるみたいだがな」
「ところであなたに聞いてないんですけど?」
「ところでお前はなんて無知なウサ公なんでしょう?」
後ろでぎゃあぎゃあと言い争っている。
「初めてこっちに来たんだからしょうがないじゃない!」
「人の親切くらいありがたく受け取れ!」と口早に綴る。
金を入れるとおもちゃが出てくる、か。コイン口は硬貨よりも大きく、長方形の穴が開いている。
長方形、金……ふと頭に浮かんだのは勇者が落とした金板。もしかしてとカバンを開けて金板を探し出す。取り出した金板をコロポンに長方形口に差し込んでみる。
試しにダイヤルをもう一度回してみると、金板は穴の中に落ちていとも簡単に回転した。
「あ、回せた!」
「「え!?」」
後ろで取っ組み合いながら二人は驚いている。コロポンは中からカセットテープを出した。
「カセットテープじゃねぇか。一体どうやって」
「金板を入れて回したら出てきた」
「金板? なんで毎回変なもん持ってるんだ……」
カバンからテープレコーダーを出し、カセットテープを入れ替えるために取り出しボタンを押す。以前手に入れたカセットテープをよく見ると、テープを巻いてあるリールハブの間にローマ数字の「Ⅰ」が書いてあり、テープは再生し終わっていた。
そして先ほど手に入れたものには「Ⅱ」が書いてある。どちらも黒くて半透明なデザイン……なにか関連があるのかもしれない。
「もう一度、あの世界に行けるかもしれない」
「は? なにを根拠に──」
「カルマ様、もし行けたとしても指名手配になってたりするんですよ? 危ないですって!」
テープを差し替えて、僕は再生ボタンを押す。
「また勝手に! ──っ!!」
「きゃ!」
僕らのいる場所は光に包まれ、僕たちは森から姿を消した。
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