第172話 釣り場での話
バスに揺られること30分ほどで無事に渓流釣りのできる釣り場へと到着しました。
……と言いましても、バス停から2分ほど歩かなければならなかったのですが、なんとも微妙な距離なのです……!
そこからは和幸さんが受付を済ませて、釣り竿とエサをいただきました。
「場所はここら辺にしようか」
和幸さんは区画整理のされた場所の1つを選び、そこにエサやら荷物やらを置いたのです。
それからは和幸さんは真剣な表情で釣りをしておられたので、私も見よう見まねで頑張って釣りに励むことに。
「そうだ、ハル。澤木とは仲直りできそうか?」
澤木とはアヤさんの名字です。そういえば、アヤさんとのことは和幸さんにはあまり話さないようにしていました。
ですので、この機会にとアヤさんとの仲直りをするべく、話す機会をうかがっているのだということや、ユーカさんとマサミさんの協力を取り付けられたことなど、色々なことをお話ししました。
「そうか。千晴も色々とやってるんだな」
「はい!私としても、少しでも早くアヤさんと仲直りをして、また一緒にSdnGをしたいのですよ!」
「千晴はスゴイな」
「きゅっ、急にどうなされたのですか……!?」
あまりにも突然な話の展開に私は驚いてしまいました。
「ああ、悪い。ちょっと思ったことが口に出ただけなんだ」
「……それはどのような思いから出た言葉なのでしょうか?」
「それはだな……千晴が澤木と仲直りをするためにそこまで頑張っていることに対してだよ。俺だったらそもそも仲直りしても無駄かなって思っちゃうだろうからさ。それを頑張っていける千晴が本当にスゴイと思ったんだ」
和幸さんのお言葉はその表情も相まって、心に刻みつけられるような感覚が。ですけど、和幸さんとしてはただ本心を話してくださっただけなのです。
「千晴?俺、何か気を悪くするようなこと言ったか?」
その声が耳から入って来て、私は俯いていた顔を上げました。というか、自分でも俯いていたことに顔を上げていて気付きました。話の後に顔が下を向けば、このような反応になるのは当然のことです。和幸さんには何やら申し訳ないことをしました。
「いえいえ、なんでもないのですよ!」
「本当か?」
「はい!和幸さんは何も気を悪くするような事はおっしゃってません!むしろ、私が和幸さんの気分を害してしまったくらいだと思うのですが……」
「そんなことはないぞ。ともあれ、気を悪くしたとかじゃなくて良かったよ」
そう言いながらニコリと笑う和幸さん。そんな和幸さんとお昼過ぎまで渓流釣りを楽しみ、その日は陽が沈む前には帰宅したのでした。
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