第02話 影猫の幸せ

 虫の演奏会が、夜空の下で賑やかに行われていた。

 演奏会の会場は広い野原だが、そこには小さな家がポツンと立っている。

 家には光が灯され、二つの影が見える。

 リビングでは、エイネとアートスが机に向かっていた。


「麻婆豆腐と母さんが~いっぱい作ってくれたけど~」

「作ったの俺な」


 御花が描かれたレンゲを片手に、エイネは頬っぺた落としていた。

 舌の上に強烈な刺激が走っていく。

 だが同時に、とろとろした甘みと旨みもあった。


「どこの高級な中華料理屋に行ったけど、やっぱお前の麻婆豆腐が一番だわ」

「そりゃどうも。嬉しい」

「ご褒美にこれ、あげようか?」


 エイネは胸元の金具を降ろした。

 一本の溝を作り出す程の豊満な胸が現れたが、アートスは眉をしかめた。


「そーいうのいいから早よ食え」


 エイネの鼻から溜息が流れた。

 口をへの字に曲げながら、ファスナーを上げると、レンゲで再び麻婆豆腐を口に入れる。

 アートスも麻婆豆腐を食していく。

 そして、とある噂を語った。


「なあ、知ってるか? カメリアの王様が殺されたって話」

「なにそれ。すっげー初耳」

「MADにやられた様だぜ。全く物騒だ。金が欲しいんだったら、俺らみたいな事をすれば良いのに」

「彼奴らは単細胞だから一生無理だよ」

「フッ。そうだな」

「で、そこに何の用があるの?」

「そりゃあ、お前、仕事だよ。アールグレイ王家の秘宝さ」

「おお。良いね~!」


 先程までの拗ねた顔はどこへ行ったのか。

 エイネは体を乗り出してアートスの顔に迫った。


「早速麻婆豆腐食ったら次の仕事に行こう!」

「待てよ。カメリアの件は別に後でも良いんだ。次はここだぜ」

「何々?」


 アートスから手渡された紙に目を通すエイネ。

 紙には、サソリが描かれた黒い陶器が載っていた。


「おお。サソリの絵が素敵な水差しね。これ、どれぐらいの価値なの?」

「ドワーフ製の超高級陶器だ。盗っちまえば、今日の宝石と合わせて三ヶ月は食事に困んねえ」


「ほほう! 麻婆豆腐食べ放題だな!」

「誰が作ると思ってんだ」


 エイネのお皿には、麻婆豆腐だったとろみだけが残っていた。

 フライパンに余った麻婆豆腐を求めて、エイネはお皿を手に、台所へ向かう。

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