新米冒険者の危機(4)

「これ、君たちのだよね。これを探しに来たのだろうけど、正直ここまで来れるとは思って無かったよ。」

「あ!!私の生徒証!!あなたが拾ってくれたんですね。良かった、もう見つかんないかもしれないと思った......ありがとうございます!!えっと......」

 エルエは名前を言おうとしたが出てこず小首を傾げる。それを見た黒騎士はふと悩んだ様で顎に片手を添えるがすぐに合点の言ったらしく、「ああ」、と短く頷いた。


「そういえば自己紹介がまだだったね。」

 黒騎士は兜を脱いで小脇に抱える。現れた素顔は真っ白な髪と歳を取ったと言う割にはあまりにも若々しい20代前半、ともすれば10代後半にも見える好青年の整った顔立ちだった。


「私はアクート。この白亜の大理石の王国『マバロニア王国』の城門の守護を勤める、見ての通り騎士、厳密には黒騎士だ。ようこそマバロニア王国へ、歓迎するよ。」

「マバロニア王国?何処かで聞いた気がするようなしないような.........」

「でもそんな国、地図に載ってなかったぜ?」

「きっとこんな広い森の中で知られていなかったんじゃない?」

「なるほど。」

 とりあえずそういう所で落ち着いた。


「マバロニア王国は全ての建物が大理石で出来ていて、その圧倒的な純白は1度見たら生涯記憶に残るとも言われているんだ。」

「生涯記憶に残る街並み!!見てみたい!!」

 エルエが両の眼を輝かせる。エルエは昔から美しい風景、美術品などにはいつもこうだった気がする。


「アクートさん?王国の中に入る事はできますか?」

「う〜ん......君たちが邪悪な存在でない事は全然分かっているのだし入れてあげたい気持ちは山々なんだけど、城門を守護する者の立場としては残念だけど入れることはできないかな。何か、信頼性のある立場と身分を証明出来るモノを持ってくれば大丈夫だよ。」


 俺とエルエと目合わせた。

「立場と身分を証明出来るモノ、それって.........」

「ああ。あれしか無いだろ!!まず目指すは銑鉄アイアンタグの取得だ!!」

「私にはよくなんの事かよく分からないけど、綺麗にメラメラと燃えているね。良い向上心だ。」

 目先の目標ができたことによって今までより一層気合いが入る。


 突然俺の頭に閃いた。

「なあ、アクートさん。中に入らなければ別にここら辺に居るだけなら良いんだよな?」

「ん?別に良いけど何をするつもりだい?」

「アクートさん!!アンタの腕を見込んで頼みがある。俺に剣を教えてくれないか!?......くれませんか!?」

「剣を教える?私が?......う〜ん。」

 アクートは腕を組み、口元を曲げ考える。やはり一介の冒険者、それもはしたの低級に過ぎない俺に剣を教えるのは色々と不味いのだろうか?


「まあ、いいや。どうせ時間だけ有り余ってる事だ。今度来たら稽古をつけてあげよう。」

「え?ありがとうございます!!」

「今日の所はとりあえず帰りなさい。明日また来てね。」

「オォッス!!よろしくお願いしまーす!!帰ろうエルエ。」

「うん。アクートさん、拾ってくれて本当にありがとうございました!!」

「どういたしまして。」

 俺達は来た道をまっすぐに帰る。


「あ、そうそう。」


 アクートの声がして立ち止まって振り返る。すると100メートル弱ほど離れていたアクートは目と鼻の先におり、俺の首には重々しい黒色の剣の切っ先が添えられていた。


「当分はに対応出来るようになれとは言わない。見えるようになる必要もない。ただ、明確な『死の色』を感じ取れる様になる事が目標だ。死ぬ気で励め、。それじゃあ気をつけて帰ってね。」

「は、はい......」


 全く気づけなかった。速いし、音も無い。首元に迫った剣の切っ先をみても直ぐには恐怖出来なかった。だが.........

「やってやる、やってやるさ......!!」

「ヤッコなんか言った?」

「なんでもなーい。」

 圧倒的強者アクートの力の片鱗を見て不思議と微笑が止まらなかった。

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