新米冒険者の危機(2)
久しぶりに楽しい1日だったと感じる。人と話すのは一体何年ぶりだろうか。
エルエとヤッコ、武器を手に取りながらも純粋に物語の主人公に憧れる子供の眼をした二人。
「喜ぶべきか憂うべきか。悩ましいところだ......ぅん?」
何かが鎧の爪先に当たったようだが.........
ーーーー
俺達は活動の拠点としているシバルトの街に帰っ
た。
昨晩は俺の間借りしている下宿先で夜遅くまでエルエと語り合っていて、今朝は少々遅めの起床となってしまった。
おかげでエルエは登校時刻ギリギリになり魔法も使って飛ぶように出ていった。
俺も冒険者ギルドに納品と達成報告をしに行くが時間に追われている訳では無いのでしっかりと準備をしてから出る。
寝間着から普段着に着替え、最小限の装備と依頼の黒葉杉の果実を持って冒険者ギルドに出かける。
「おはようヤッコくん。どこかへお出かけ?」
黒いロングヘアが特徴的な女性、リコットさんが玄関先を掃除していた。俺の母の友人でもあり、俺達はほぼ毎日の食費ぐらいの格安の費用で下宿させて貰っている。
また、リコットさんは巷では少し噂になる美人さんではあるが、自宅の1階でやっている服屋で忙しく30代前半だがまだ独身である。それでも狙っている男は多そうだが。
「おはようリコットさん。昨日の
「エルエちゃんも朝急いで出ていったし、昨日の依頼はよっぽど大変だったようね。気をつけてね、行ってらっしゃい。」
「いってきまーす!!」
鉢植えの花が洒落た蜜花通りから曲がりくねった細道を抜ければ、東門から南東門を繋ぐシバルトの街の中で最も活気のある旅人大通りに出る。
旅人大通りには今日も馬車や人が多く行き交っている。
宿屋や小道具屋、武具店が壁の様に並ぶ中、一際大きな建物、冒険者ギルドに辿り着く。何故か赤錆の着いた木の大扉に手を掛けようとしたが、鈍い音が微かに聴こえ扉から離れる。
すると読み通り
冒険者になったばかりの頃は毎度驚いていたが、2ヶ月半もほぼ毎日のように見る光景だからさすがに見慣れた。
いつもの様に依頼品をギルドに渡して報酬の570ウェル*を受け取る。黒葉杉の果実はシバルトから近い黒葉の森の特産品ではあるのだが、その森は危険な魔物が多くノータグの冒険者が受ける
「さ...てと。やる事も特に無いし、リコットさんの手伝いでもしに行こうかな。」
「おーい!ヤッコ!」
「この声は......やっぱりガンタだった!!」
「ヤッコ君、暫くぶりだね......」
俺を大きな声で呼ぶ見慣れたボサボサの赤毛の男はガンタだった。そしてやはり、薄い空色の前髪で片目を隠したガンタの幼馴染みの少女、ネラも例のごとく一緒にいる。
俺とエルエとこの2人組とは歳も近い上、たまたま同じタイミングで冒険者として登録した時からの中である。
「と、ところでヤッコ、今日はエルエは......」
「今日は学校だよ。」
「そ、そうか、そうだよな。」
「なんだ?毎度変なヤツだな。なんの用なんだ?」
「そういえばそうだった......ゴホン。これを見ろ!!」
ガンタが高々と首から下げている何かを掲げた。合わせてネラもおずおずと同じものを小さく持ち上げた。
「
「フフン、まあ、な。」
銑鉄から始まる冒険者タグは確かな実力を証明する正式な冒険者の身分証である。
「この間、崖オオカミのボスを倒した時の功績で貰ったんです。」
「同じ日に登録したのに先を越されちまったか...」
「ハハ、気にし過ぎだって。俺はお前らよりお兄さんなんだしな!!」
「年上ったって1個違いだろーが!!まあいいや、いずれ追い抜くからな。とりあえずガンタもネラもおめでとう。」
「あ!!ありがとうございます!!ヤッコさんならすぐに上がってこれます!!」
「おう!!早く俺たちの所まで登ってこい!!」
「そういえば、アイアンタグになったって事はどの神様から加護を貰うか決まったか?」
「いや、つい最近タグを貰ったばかりだからな。まだ推薦も勧誘もなんも来てないぜ。」
俺達が談笑していると大人の男が衝突した割に平気な入口の扉が開いた。
「エルエ!?」
「え!?エ、エルエ!?」
「エルエちゃん?なんでこんな時間に?」
冒険者ギルドに入って来たのはここに居るはずのないエルエだった。息を切らして汗を垂らして、全力で走ってきた様だった。
「エルエ、どうしたの?学校は?」
「ハァハァ...ヤッコ!!ハア...!!大変なの!!生徒証を多分森に落として来ちゃって......」
「なんだって!?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
*平均的な正規従業員の月収の半分程
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます