黒騎士と夢見る冒険者

四々十六

新米冒険者の危機(1)

 黒葉くろはの森を駆ける影があった。

 影のうち一つはオレンジの混じった焦げ茶の髪の新米冒険者の少年ヤッコ。蝶の丘の開拓村から成り上がりを夢見て剣1本で村を飛び出して来た駆け出しの剣士である。

 もう一つは同じく新米冒険者の少女エルエ。ヤッコの幼なじみで同い年で髪はよく変えるが今はブロンドのボブ。現在、魔法学校に通う生徒であり、休みの時に危なっかしいヤッコを手伝っている。

 3つ目は巨大な8足のカマキリの魔物、オクトマンティス。本来ブロンズタグの冒険者パーティーで相手取る力を持つこの魔物は馬よりも速く、甲殻は木材の様に堅い。更に両前脚の鎌鋭く、は木をも切り倒す。新米のノータグ冒険者の二人にとっては適うべくもない上位者である。


「ヤバいよヤッコ!!もうすぐソコにまで追いつかれてる!!」

「分かってるって!!エルエは速く詠唱しろよ!!」

「う、うん!!『大気に宿る火の大精霊スルドラのマナ。我が魔力と混ざり、焔となりて表さん』。」


 オクトマンティスから逃げる為ヤッコはエルエを抱え、森を駆ける。しかし、そのせいでどんどんと森を奥に進んで行く。


「『顕すは火、形成すは矢、我が名はエルエ!!』いっけえええ!!!!ファイアアロー!!」

「〜〜〜〜!!!!」


 エルエが向ける杖から火の矢が飛び出す。エルエのファイアアローは真っ直ぐにオクトマンティスの顔へと命中する。オクトマンティスは脚を止めて火を消そうともがく。


「やったあ!!大成功!!でも多分倒せてはないよ!!」

「んじゃあ今の隙に逃げるだけだ!!」

 2人は再び走り出す。


「やった!!森を抜けるぞ!!」

 暫く走り抜けた所、木々の先に開けた場所が見える。

「大変!!オクトマンティスが追い付いてきた!!」


 後ろを向いていたエルエは焼け焦げた顔で、怒り狂った様に追いかけてくるオクトマンティスを発見した。その速さは先程よりも速く、正に死に物狂いといった様相だ。


「追いつかれる!!」

 エルエは残った魔力を固めて礫の様に放つが効いている様子は微塵もない。


 距離を詰められるヤッコの目に黒い人影が映る。

「人?危ねぇ!!逃げろ!!」

 大きな人影は此方を向いたかと思うとその姿を晦ます。

 すると今度はエルエの視界に現れ大上段に剣を掲げる。


「え?」

 エルエは驚愕する。ただの剣の一振りで2メートルを優に超えるオクトマンティスの堅い巨体を両断したのだ。

 余程上位の冒険者で無ければ不可能な芸当である。


 ヤッコは立ち止まりエルエを下ろす。

「えっと......あの!!」「助けて貰ってありがとうございます!!」

「怪我は無いかい?......そうか良かった。森は危ない。子供なんだから遊ぶのは良いことだけど危ない事は程々にね。さ、帰りなさい。」

 黒騎士は2人の頭を撫でた。鎧越しでも分かる強く優しい手と声だった。


 ただ子供の遊び扱いされてヤッコはカチンと来た。

「子供でも遊びでもねえ...ですよ!!俺達は冒険者で仕事しに来たんだ......来たんです!!」

 そう言って本来の目的である黒葉杉の果実採取の依頼書を突き出した。

 黒騎士は一瞬驚いたが納得したように言った。

「そうだね。いや、そうだな、男は剣を持ったら年齢としに関係なく1人の戦士だ。悪かったな。」

「ああ!!そう言ってくれたのはアンタが初めてだよ!!ありがと!!」

「私からもありがとうございます。ヤッコったら子供とかガキとか。そう言われる度に突っかかって。そういう所だと思うんですけどね。」

「いや、私の本心だよ。まあ、君達みたいな年頃の子達が剣を持たなくてはいけないと考えると虚しくはあるけどね.........と、長く生きると悪く考えていけない。私はここを護らないといけないから送ってあげられないけど、気をつけて帰るんだよ。」


 黒騎士はもう一度頭を撫でて別れを告げた。

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