不公平

「おーい! 久しぶりー!」


扉を開き殺風景なラスボスの部屋の中に入った。薄暗くて視界の悪い中でも玉座に鎮座しているラスボスが絶望的な顔になっていくのがわかった。

清々しいほどに感情が顔に出ててここまで来ると嫌われててもあまり傷つかなくなってくる。


「お前さ、もう来ないんじゃなかったのかよ!」


いつもなら、立ち上がってすぐバトルが始まるのにラスボスは立とうとしない。

この間のやつが相当響いてたんだな。

軽く肩を竦めて彼の方に向かって歩く。


「いや、俺も来ないつもりだったんだけど、店にお客さん来なくて寂しかったからさ」

「お前くらいだぜ? 寂しさ紛らわすためにオレのところ来るの。幹部ですらそんな事しない」

呆れた表情をしているラスボスの前に行くと胡座をかいて座る。

このヒト、チャレンジャーが来るまでずっとここに座ってるのかな? 痔になりそう。


俺がラスボスのケツを心配してると彼はおもむろに口を開いた。


「で、お前の構えてる店ってなんの店なんだ?」


まさかあっちからその話題に触れてくれるとは思わなくて無意識に口元が釣り上がる。


「よくぞ聞いてくれました! 俺の店は『スキル屋』っていうのなんだよ」


ラスボスは小首を傾げた。


「スキル屋?」

「うん! 困ってるチャレンジャーのために俺がスキルを作ってその人にあげるんだ」

「お前スキル生成できんの?」

「最近できるようになった!」


正直に答えるとラスボスは俺が入ってきた時のような絶望的な顔になり頭を抱え出す。

まるで借金を抱えて追い詰められてるサラリーマンのよう。


「この間のバカみたいな強さはそのせいか……あと、ステータス表示のやつでスキルがエラーっていうのも……」

「そゆこと! それでさ、君もなんか欲しいスキルがある?」


その言葉にラスボスは顔を上げ呆れた表情で俺を見た。


「オレ、チャレンジャーじゃねぇんだけど。ラスボス様なんだけど」

「いいのいいの。お客さんいないし、俺は平等精神だからね」

胸を張って告げるとラスボスは「それなら」と言ってラスボスとは思えないほどめちゃくちゃ輝かしい笑みを浮かべた。

「和泉悠真弱体化スキル。もしくは、和泉悠真の攻撃を全部無効にするスキルがほしい」

「誰が悲しくて自分の首締めるスキルをやるかよ」

即答で断るもラスボスはどこか浮かない表情。どうやら冗談で言ったつもりではないらしい。

そんなにこの間の負け方を根に持ってるのか?


「でも、そうじゃねぇと割に合わないだろ。お前らチャレンジャーは成長できるけど、オレら敵は成長できん。1回負けたらそいつに勝つことはほぼ不可能だ」


唇を噛み締めるラスボスの言葉はどこか納得するものがある。

俺はラスボスに手のひらを翳し、ステータスを表示させた。


【ローワン】


性別 : 男

年齢 : ???

ジョブ : 魔王(ラスボス)

レベル : 983

スキル : バッシブスキル『毒・闇無効』『威圧無効』『物理耐性』『魔法耐性』

アクティブスキル『暗黒魔法』『猛毒魔法』『雷撃魔法』

魔眼『威圧』


……そう言えば、このヒトの名前ローワンだったっけ。


これを見る限り、2年前初めてこのヒトと戦った時とレベルとかスキルに変化がない、と思う。

成長しないか。それならーー。


手を引っ込めステータス表示を消すとローワンの方を見る。


「ーーローワン。俺がとっておきのスキルを提供してあげるよ」

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