第10話 青春ホラーゲーム
「聞いて聞いてー。保健室のベッドで五千ポリゴンの3Dキャラクターとイチャついてる人いたんだけど。しかも、ピンクのセーラー服着せてるんだよ! ありえなくない!?」
――なんて、今頃、クラスで言われてるんだろうか。
詰んだ。終わった。俺の青春が……花も咲かせず、枯葉となって散っていく。
完璧に顔も見られたし、これで、どこかでばったり出くわそうもんなら……。
「あ、この前の保健室の人ですよね? もう体調は大丈夫なんですか? てゆーか……頭、大丈夫ですかぁ?」
ふっと蔑むように微笑んで、そんなことを言われるのだろうか。
はあっとひときわ大きなため息ついて、俺は自分の席で頭を抱えた。
ただでさえ、女子に怯えて暮らす日々なのに、これからはさらに『妖精』の脅威にさらされながら学校生活を送らなければならないのか。廊下を歩く時も、常に『妖精』を警戒し、その影に怯えながら……て、もはや、ホラーゲームだよ。
なんで、こんなことに……。始業式をサボった罰なのか……!?
麗らかな春の日、そうして教室で一人、絶望の淵にいると――始業式が終わったのだろう、廊下から喧騒が響き始め、わらわらと教室に入ってくるクラスメイトたちの気配がした。
そして、
「なんだ、笠原。戻ってたのかよ」
呑気な遊佐の声がすぐそばからした。億劫に思いながらも顔を上げると、
「って、顔真っ青だな!? まだ気分悪いなら、保健室戻れよ」
「いや……もう戻れない。いろいろと……」
「なんだ、それ。何があったんだよ、保健室で」
言えるわけねぇし、言いたくもない。ふっと自嘲するような笑みを浮かべて、俺は黙秘した。
すると、大して気にするふうでもなく、「ま、いいや」と遊佐はあっさり諦めた。
「それよりさ、始業式にいなかったんだよ、絢瀬セナ!」
俺の前の席にどっかり座ると、遊佐は心底残念そうに言った。
途端に、ぎしっと岩になったかのように体がこわばる。
「一年六組の列、見てみたんだけど、それらしい子が全然いなくてさ。今日、休みなのかな?」
俺の机に頬杖ついて、遊佐は気怠げにため息つく。
そういえば、周りでも「セナちゃん」「アヤセナ」と悲嘆に暮れる男どもの声が聞こえてくるような……。始業式の最中、皆で必死に『妖精』の姿を探していたのか。その様がありありと思い浮かぶわ。
しかし、いなかったんだな。そりゃそうだ……保健室に――俺の隣のベッドにいたんだから。
「おい……笠原!? 大丈夫か、ものすごい震えるぞ!?」
「いや……なんでもない」
ガタガタ震えながらも、俺は机の上で両手を組んで平静を装った。いや、まあ、机が音を鳴らすほど震えてる時点で、全く装えてないんだけど。
ワンチャン、幻覚もあり得るか、と思っていたんだ。保健室で出くわした『妖精』は、彼女への恐怖心から俺が作り出した幻覚だったのかもしれない――と、そんな希望を抱いていたのだが。
んなわけない……か。
「気分悪いなら、もう帰れよ。始業式も終わったし」
「確かに……」
ははっと力無い笑みがこぼれた。
その通りだよ。保健室に逃げ込まず、さっさと帰ってしまえばよかった……。
「あ。でも、その前にさ」ふと、遊佐が怪しく微笑んだかと思えば、俺にスマホのカメラを向けて、「写真撮らせて」
「は!? なんで……」
「セナちゃんにお前のこと覚えてるか、聞いてきてやるよ」
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