第7話 限界

 なんだかクラクラしてきて、体から力が抜けていくようだった。これがいわゆる、骨抜き……というやつなんだろうか。全身が蕩けていくみたいで。頭がぼうっとして、しっかりと繋いでいた小指もするりと解けていた。

 有無を言わさぬ勢いというか……じっくり丁寧に味わうようで、縋り付いてくるような――そんなキスに翻弄されているうちに、もぞっと服の中に何かが潜り込んでくるのを感じた。Tシャツの裾から忍び込んできたそれは、脇腹の辺りをつうっと優しく撫でるように、ゆっくりと這い上がってくる。滑らかでひんやりとして。こそばゆいようで、歯痒いような。その感触に背筋がぞくりとして、ピリッと痺れるような何かが脳天まで突き抜けていくような感覚を覚えた。

 きっと、快感……というやつなんだろう。その感覚を、他人ひとの手を通して与えられるのは初めてで。戸惑って、そして、たまらなく高揚した。

 その間も相変わらず、香月は途切れなくキスをし続け、さすがに限界が来た。

 これ以上は、もうダメだ――と、俺は香月の肩を掴んで引き離し、


「こ……殺す気か!?」

「ええ!?」


 息も切れ切れツッコむと、香月は上気した顔をぎょっとさせた。


「な……なんで? 今の流れで……どこに、そんな要素があったの!?」

「お前こそ……なんで、そんなに息が続くんだ!?」

「息……?」と香月は目を瞬かせる。


 全く息を切らせずにきょとんとしている香月が、腹立たしいやら妬ましいやら。こっちは酸欠でもうフラフラだっていうのに。

 必死に息を整える俺を、しばらくまじまじと見つめてから、香月は「もしかして」とぼんやりと呟いた。


「ずっと……息、止めてた?」

「へ……?」


 なんだ、その質問?


「止める……だろ?」


 ぽかんとして聞き返すと、香月はなぜか、ぱあっと瞳を輝かせ、ほくほくと微笑んだ。


「そっか。ごめん、ごめん。苦しかったね」

「顔が全然、謝ってねぇぞ。なんで、そんな楽しそうなんだよ」

「これから、いっぱい練習しようね。苦しくならないように、教えてあげる」

「お……教えてあげるって……」

「でも、その前に」と香月は妖しげな笑みを浮かべ、俺に両手を伸ばしてきた。「うにうにしていい?」

「なんでだよ!?」

「可愛くてたまらなくて」


 分からん。まったく分からん。

 俺を『可愛い』と思う感覚がまず分からないが、このタイミングでうにうにはもっと分からん。てか、そもそも、うにうにという行為自体が意味分からん。


「う……うにうにはもうやっただろ!」

「一日一回か」

「そういうわけじゃねぇけど……てか、日課にすんの!?」

「うにうにはダメか〜。じゃあ……」と香月はそっと俺の太ももに手を添え、身を乗り出すようにして顔を覗き込んできた。「さっきの続き、しよう」

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