第4話 告白

 不思議な感じだった。

 これできっと香月とはもう友達でもいられなくなる、ていうのに……落ち着いていた。胸につかえていたものがすっと取れたような、そんな開放感さえあった。

 さっきまでの迷いも焦りもすっかりなくなって、あとはなるようになるだけだ、て……諦めでもなく、開き直りとも違う、自信――にも近い悠然とした心持ちになっていた。もしかして、これが腹を括る……てことなんだろうか、なんて漠然と思えるほどに。

 もう何も隠すものもなくなって、なんの躊躇いもなくまっすぐに見つめる先で、香月は唖然としていた。無防備なほどに口をぽかんと開け、声も出ない様子でしばらく硬直してから――、


「ん……?」


 まるで頭痛でもするかのように眉間に皺を寄せ、小首を傾げた。

 どういうこと? と顔に書いてあるようだった。

 そりゃそうだよな、と苦笑が漏れる。

 つい、気持ちが高ぶって、話の流れも無視していきなり告白してしまったんだ。困惑して当然だ。突然、何を言いだすんだ、て感じだろう。

 香月としては……護と付き合うことになったことを親友である俺に伝えに来ただけなんだから。まさか、俺に告られることになるなんて思ってもいなかったよな。藪から棒……というより香月にとっては、藪から蛇、かもな。

 動揺する香月を前にして、悪いな、と胸が痛みながらも……やっぱりもう躊躇いを覚えることもなく、「あのな」と改めて切り出した声は自分でも驚くほど落ち着いていた。


「友達でいよう、て思ってたんだ。お前の傍にいれるならそれでいい、て。たとえ、お前が護と付き合うことになったとしても、俺は『いい友達』として傍に居よう、て……そう思ってた。それがお前のためになるなら、フリでもなんでもいい、今まで通り『親友』として支えていこう、て決めてた。

 でも……こうして会って、無理だ、て思い知った。こうして一緒にいたら……やっぱり、お前に触りたくなる。『友達』以上のことをしたい、て思う。それを隠しながら、『親友』のフリしてお前の傍にいることは俺にはできないし……間違ってるとも思う」


 みるみるうちに香月の目が見開かれていくのがはっきりと分かった。険しかった表情も和らいで、驚きのそれへと変わっていった。段々と……俺の言葉が飲み込めてきたんだろう、とその変化が手に取るように伺えた。

 そうやって子供みたいに表情を変える香月を、やっぱり可愛いな、なんて思ってしまって微笑が溢れる。これできっと、香月との関係も終わる、ていうのに……呑気なもんだな、て我ながら呆れながらも、


「香月、俺な――」と、どうしようもなくこみ上げてくるものに身を任せるように、俺は続けた。「女子が苦手になってからのこと……後悔できないんだ。女性恐怖症になって良かった、とも思ってる。そのおかげでお前とずっと一緒にいられた。それだけで贅沢だったとさえ思う。そのせいでお前に男のフリを続けさせて、きっと辛い思いもさせたし、傷つけたこともあったと思う。それでも……後悔できないんだ。なかったことにしたいと思えない。やり直したいなんて思わない」


 そこまで言って、「な?」と俺は自嘲めいた笑みを浮かべ、


「そんなの……全然、『いい友達』じゃないだろ。だから――俺はもうお前の『親友』にはなれねぇわ」


 冗談っぽくもそうはっきり告げると、香月はぐっと堪えるような表情を浮かべ、口元を両手で覆って俯いてしまった。

 どんな答えが来ようと受け止める――なんて境地に至ったつもりだったのだが……。

 香月のそれは、あまりのショックに気分でも悪くなったんじゃないかという、そんなリアクションで。さすがに、ぎょっとしてしまった。

 思わず、「おい、香月?」と慌てて傍に詰め寄り、顔を覗き込み、


「大丈夫か!?」

「ダメ……」


 声をかけるなり、すぐさま弱々しい声が返ってきた。

 苦しげにくぐもった声はやはり具合が悪そうで、「とりあえず、水……」と立ち上がろうとしたとき、ぐいっとシャツの袖を引かれ――ハッとして振り返ると、


「ダメ……だと思ってた」


 香月は俯いたまま俺の袖を掴み、声を詰まらせながらそう呟いた。

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