五章
第1話 友達の親友
「わー、ほんとに笠原くんだ!」
「すごい、すごい! 超懐かしい〜」
「ちょっと印象違うけど……やっぱ、面影あるね!」
きゃっきゃきゃっきゃ、と騒ぐ彼女たちは、相変わらず、光り輝くオーラを撒き散らし、眩いほどだった。向かい合うだけで、凄んでしまう煌びやかさ。変わらないな、と思ってしまった。
防具に身を包んで、常に汗だくでぶつかり合ってる俺たちとは対照的で。まるで羽でも生えているかのごとく氷の上を軽やかに舞う彼女たちは、優雅で気品に満ち溢れ、別世界の存在のようだった。彼女たちが滑っている間だけ、まるで真っ白なリンクがダイヤモンドでも敷き詰められているかのように輝いて見えたんだ。
そんな彼女たちと……まさか、こうして向かい合って座ることになるとは。それも、カラオケボックスで。
「いいでしょ〜」と、ソファの一番ドア側に座る絢瀬がへへんと自慢げに威張って見せた。「偶然、保健室で会ったんだ。カーテンの向こうからセンパイの声が聞こえて、もう我慢ならなくて声かけちゃった。だって――」
って、いきなり、何を話し出す気だ!?
「絢瀬!」と思わず、俺は大声をあげて遮っていた。「その辺はいいから……!」
「え? あ……そっか。二人の秘密ですね〜」
ふふ、と絢瀬は頰を染めて意味深に笑った。
長い黒髪をゆるく三つ編みに結い、春らしい花柄のふわふわとしたワンピースに身を包んだその姿は、一段と『妖精』らしさが増していて……そんな格好で、愛らしく微笑まれたら――。
俺は思わずたじろぎ、視線を逸らしていた。
すっかりカレシ仲間として仲良くなったとはいえ、照れるものは照れる。
そんな俺のリアクションもしっかり見られていたのだろう、絢瀬の隣に座る三人は急にどよめき、
「なんか……怪しい〜!」
「秘密ってなになに!?」
「思わせぶりー! 教えてよ、セナ」
「俺も知ってるんだけどね」
甲高い声をこれでもかと弾ませ、わいわいと盛り上がる三人――に紛れ込んだ低い声。ハッとして隣を見ると、
「あの、セナちゃん」とひきつり笑みを浮かべ、遊佐がちょこんと手を挙げた。「俺のことも紹介してくれる?」
「あ、すみません! 忘れてました」
「忘れてたの!?」
すっと居住まいを正すと、絢瀬は開いた手の指先で遊佐を指し、
「笠原先輩のお友達のホセ先輩です」
「遊佐だって! セナちゃん、覚える気ないよね?」
「ごめんなさい」と絢瀬はハッとして口許を押さえ、「センパイ、ホセっぽくて」
「どういう意味、それ?」
「ところで、センパイ。他のお二人は……?」
「あ」そうだった、と俺も思い出して、遊佐に振り返る。「倉田くん、大丈夫か? 場所、分かる?」
絢瀬が選んだのは、
確かに、俺や絢瀬たちには馴染みのある土地だが……この辺はゲームセンターやら飲み屋やらがごちゃごちゃと並んで入り組んでいて、初めて来る倉田くんには難しいかもしれない、と俺は思い始めていた。
「俺、外、見てこようか」と立とうとすると、「いや。それは大丈夫」と遊佐ははっきりと言いきった。
「電車に乗り遅れた、とかじゃねぇかな。LIMEしてみるよ」
スマホをポケットから取り出し、何やら打ち出す遊佐。それを合図にしたかのように、「そういえばさ」と絢瀬たちは近況報告のようなものを始めた。
とりあえず、ほっと息をつく。
助かった。
さすがにぶっ続けであのキラキラオーラを当てられては、持ちそうにない。
あれから――結局、香月に何も連絡ができないまま……合コンの日を迎えてしまった。
胸につかえを残したまま臨むことになり、コンディションは絶不調。香月にどんなLIMEを送ればいいのかもやもや考えつつも、ふとした瞬間に、合コンで考えられうる最悪のケースが脳裏をよぎる。そんな状態を何日も続けた挙句、昨夜は激しい動悸に襲われ、心臓がうるさすぎて眠れなかった。今も心臓はフル活動で、ちょっと気を抜けばぶっ倒れそうだ。――それでも、なんとかこうして座っていられるのは、隣に遊佐がいるのと(遊佐は「なんで隣に来るんだよ!?」と気に入らない様子だったが)、絢瀬がうまく会話を回してくれてるお陰だな。
以前なら……こういうとき、『カヅキ』に助けを求めていたんだろうな、とついつい考えてしまう。
そういえば、前の合コンのときも、遊佐に誘われたその日にあいつに電話したっけ。俺の代わりに合コンに出て欲しい、て頼もうとして――。
懐かしくなって、つい苦笑が溢れた。
あのときは、思いもしなかったよな。まさか……その合コンで、香月と出くわすなんて。
「お。ちょうど、着いたって」
隣で遊佐がホッとしたような声を出し、スマホをしまって俺の方へ一瞥をくれた。
「今から中に入ってくるって」
「そっか、よかった」
今度こそ、と今回の合コンのもう一つの目的を心の中で確認する。――倉田くんにしっかりと謝罪を……!
「そういえば、あと二人って誰なんですか?」
ふいに、絢瀬が思い出したように訊ねてきた。
「ああ……遊佐の友達で――」
そこまで言って、続きを促すように遊佐に視線を送ると、
「そうそう」と遊佐はふっと笑んだ。「倉田っていう、中学ん時の同級生と……あと、親友」
「親友?」
ん? 親友?
思わず、眉をひそめていた。
もう一人は……たしか、倉田くんの友達――て言ってなかったか? 共通の友達だったのか? ってか、親友って……。
「お前に親友なんていたのかよ? 聞いたことも無いぞ」
「できた」
遊佐は涼しげな表情で、けろっとそう答えた。
できたって……親友ってそんなに簡単にできるものか?
どうも怪しい。「お前……」と問い詰めようとした、そのとき――、
「遅れてすんません! 電車一本乗り遅れちゃって……」
ばん、と勢いよく扉が開かれる音が響き、野球部らしい野太い声が飛び込んできた。
「おう、倉田」
親しげにそう声をかける遊佐の視線を追うように振り返り、俺も挨拶しようと開けた口は――声も出せずに固まった。
あれ……と、一瞬、意識が飛んだような気がした。
「遅れてごめん。――皆、久しぶりだね」
倉田くんのあとから部屋に入ってきたのは、すらりと背の高い美少年だった。ゆるっとしたTシャツに、長い脚を見せびらかすような細身のパンツ。さらりと長めの前髪を搔きあげ、優しげに目を細めて微笑む様は、まさに絵に描いたような『王子様』で――。
その瞬間、
「カヅキ様!?」
きゃあっと元フィギュアの四人が一斉に沸き立ち、黄色い歓声を上げた。今にも立ち上がって、ペンライトやら
ああ、その様も懐かしいわ。こうやって、よくフィギュアの子達が瞳を爛々と輝かせてリンクの外から『カヅキ』に手を振っていたっけ――て、いや……なんでだよ!?
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