一章
第1話 『氷の妖精』
俺の地元のスケートリンクには『氷の妖精』と謳われた美少女がいた。
当時、俺らはまだ小学六年かそこら。輝かんばかりの笑みを浮かべ、真っ白のリンクの上を軽やかに舞うその姿に、俺たちアイスホッケークラブの少年たちは見惚れたものだ。
フィギュアの練習に来ていた彼女と俺たちアイスホッケークラブは、スケート場の営業時間後から夜中までの短い時間の中、練習時間を調節してスケートリンクを譲り合う関係だった。だから、お互い、練習する姿を見かける機会はよくあって、名前までは知らないまでも顔を合わせることも多かった。
たまに、練習が終わった『妖精』が、氷のように透き通るような肌をほんのりと上気させながら、
「がんばってくださいね」
なんて、俺たちに微笑みかけてくれることもあって。
俺にとって、練習の励みにもなっていたんだ。あの日までは――。
それは、『妖精』と入れ替わりにリンクを出たあとだった。忘れ物をしたことに気づいて、更衣室からリンクに戻った俺は、うっかり聞いてしまったんだ。
「そう、ホッケーの子。練習のあと、会いたくないんだよね。汗臭いし」
『妖精』が、フィギュアの仲間とそんな会話をしていたのだ。
その瞬間、俺の心の中で何かにヒビが入ったのを感じた。まるで氷に亀裂が入るみたいな。
それからだ。俺が女性恐怖症になったのは。
中学までは男女混合であるアイスホッケー。チームにも女子はいて、当然、プレイにも支障が出始め、俺はしばらくしてチームを抜けた。
そして、高二の今――。
俺には彼女がいる。キラキラ輝く大きな瞳に、ピンク色の長い髪。まごうことなき美少女だが、決して隠れて「汗臭い」なんて人を罵ることのない、身も心も清らかな女の子だ。
スマホの中だけど。
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