故郷(最終話)②
「アランがね、全て明らかにしたんだ」
「アランが?」
突然の言葉にジュールは思わず声を上げた。
神父は頷いた。
「あの朝、君がいなくなったのを最初に見つけたのはアランだった。そして、君が残した走り書きも。……『ぼくは、ころされる』と」
あの夜の記憶が断片的に浮かび上がりジュールはぎゅっと目をつむった。真っ白な頭の中でその言葉だけを残したことを思い出した。ぼくは、ころされる……。
「ベッドのシーツには血がついていた。アランは警察に通報すると言って大騒ぎした」
テーブルの端に目を落としながら神父は続けた。
「おかしなことに、同じ日にディディエの畑で雇われていた男が二人いなくなった。失踪したんだ。アランが訝しく思って村長にそれを告げると、村長は残った一人の男に問いただした。ジュールのことと何か関係があるのではないかとね。詰問されてごまかし切れなくなった男はついに白状した。ちょっとした悪戯のつもりだったと。そして、その……君と、ディディエの関係を知っていたと」
神父は少し間をおいてチラリとジュールを見た。ジュールは目を逸らしてうつむいた。心臓がズキズキとしてきた。まだ覚悟もできないうちから話はいきなり核心へと進んでいく。
「アランが大騒ぎしたので残りの男たちは怖くなって逃げたのだろう。これは悪戯なんかじゃない。れっきとした犯罪だ。勿論、ディディエが君にしていたこともだ」
「……それで……」
「ディディエのことが明るみに出て、カミーユは家を去った。アランも連れて行こうとしたが、アランはまだやり残したことがあると言って一緒に行かなかった。思えばあの時カミーユと一緒にうちを出ていればよかった」
おばさん……。傷ついたろう。こういう時、辛い目に遭うのはいつも妻の方だと思う。
「アランが教会に来た。私に話があると言って。彼は苦しそうに告白した。彼も、君とディディエのことを知っていたと、そう言ったんだ」
ジュールはうろたえて神父を見返した。
「そんな馬鹿な……!」
「ある時から君の様子がおかしくなったと彼は言った。十二月に入った頃からか、君は元気がなくなって、父と目を合わさなくなったと。父は短気ですぐ手が出るところがあるから、君が折檻でもされてるんじゃないかと思っていたそうだ。特にいつも母と自分が留守にする木曜日は、帰って来ると君がひときわ落ち込んでいるようだったから、ある日忘れ物をしたふりをして一人で家に戻ってみたという。こっそりと家に入ったら君たちの姿がない。すると二階から声が漏れ聞こえてきた。そっと階段を昇ると君の使っている部屋から君と父の声がする。君の、懇願するような泣き声と、父の、命令するような恐ろしい声が。アランは鍵穴からそっと中を窺った。そして信じられない光景を見て凍りついた。君の泣き叫ぶ声が聞こえた時、彼は恐ろしくなってその場を離れた。父が君に何をしているのかはっきり分かったと、アランはそう言った」
ジュールは椅子に座り込んで顔を覆った。
「……君に打ち明けてもらいたいとずっと思っていたそうだ。でもそのすべはなかった。ジュールは絶対話さないだろうと彼は知っていたから。君はそういう子だ。そこにディディエもつけ込んだのだ。春になって君が家に帰りたいと言い出した時、アランは引き止めることをしなかった。君のためにはその方がいいと彼は思った。もう終わりになるだろうと信じていたんだ。ところがそうではなかった。それどころか君はもっと恐ろしい目に遭って、そして、姿を消してしまった」
神父は眉間にきつく皺を寄せて続けた。
「アランは激しく後悔していた。大事な友達が辛い目に遭っているのを知っていながら何もできなかった自分を責めた。君を助けられなかった自分を咎めた。アランは片をつけると言って帰って行った。そして、その夜、アランは寝室に行って眠っている父を刺した。家畜を全部小屋の外へ逃がし、そして──家に火をつけた」
ジュールはグッと息を呑み込んだ。
「……本当ですか?」
「見に行くか?」
ジュールは恐る恐る頷いた。
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