けだしあやかし
藤原埼玉
第1話
初夏の木陰はまるで緑色の屋根の様。
何だかんだと子供の歩調にあわせて歩いてくれる
見上げると微かな木漏れ日が優しく差している。遠い昔、両親に連れられて歩いた、そんな朧げな記憶が頭の奥をくすぐる。
私の両親は私がまだ幼い頃に人間に猟銃で殺されたらしい。
以来、私に家族と呼べるような者はおらず、両親の昔馴染みの
ふと鼻先をつく、何かが焼けるような、それでいてどこかやさしい不思議な匂いがした。
「…
人里の近くに住む私達妖狐は用心のために人化しているとはいえ、こうやって身を隠す。
「葬列だな」
「そうれつ?」
私はきょとんとして人間たちの群れを見た。みんな俯いている。黒い着物を着たつるりとした頭の男の後ろには涙を流す女とそれを支えるように歩く男がいた。
「…人はああやって”死後の魂を慰める”のだそうだ。人は短命だから、肉体が死んだ後、魂がまた生き返るのだと信じているらしい」
大きな女の人が赤子のように泣きじゃくっているのが見えた。
「…死って泣くほどつらいことなの?」
「ねえねえ、あの泣いてた人は死んだ人のことがそんなに大事だったのかなぁ?」
無言のまま少し早足に歩いていく
「生まれ変わるって信じてるならなんでかなしいんだろうね?変だよね?ね?」
「…」
「泣くってどんな感じなんだろう?
「…人は短命で弱く、群れて子を成し、
「愛…?」
確かに人は私達妖狐とは大分違う。不老の妖狐が子供を作るのはなにかの理由で村の妖狐の頭数が減った時くらいで、あんまりに頭数が増えすぎると逆に色々と困ることが多いらしい。
「俺が知ってるのはそれくらいだ。さっさと帰るぞ」
どうして、あの女の人は泣いていたのだろう。
どうして、もういなくなった人のことをかなしむのだろう。
どうして、涙を流すのだろう。
どうして。どうして。
私の胸の奥に引っかかってとれないものがどんどんと降り積もっていく。
死。
家族。
愛。
まるでどこか遠い国の夢のように不思議な手触りの言葉。
それらがどういうものなのか。
私はまだ知らないままだ。
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