第29話 竣工したバベルは寡黙だが雄弁だ
これは隕石です。普通の石より重いです。触ってみてください。外の道に落ちていました。
拾った場所のすぐ近くに蒼電塔があります。空から降ってきて、蒼電塔に当たって落ちたのでしょう。よく見ると蒼電塔の塗料らしきものが不着しています。
蒼電塔は真っ黒です。表面がどうなっているのかよく見えません。よって、破損箇所があってもかなり慎重に調べなければわかりません。
停電の原因は、おそらくこの隕石です。
シオンはそれだけのことを説明した。今まで配線系を調べていた塔台守のエンジニア達は、早速、調査を開始した。サンもいた。ウミノも手伝っている。
破損箇所が分かれば、一週間もたたずに電力供給が復旧するそうだ。
「貴重なことを教えてくれて、ありがとう。でも……」
「分かってます。地上の民の真相を知っている私は、もう墨天坑には戻れない」
「……もしよろしければ、私達の仲間になりませんか? 希望を捨てないのであれば、塔台守は、来る人を拒みません」
新人類も、旧人類も。
塔台守のエンジニアは、そう付け加えた。
私達は滅びを受け入れます。だから、新人類に知識や歴史を無償で提供します。
地上の民のことも受け入れます。だから、地上の民を守る一虎くんを守ります。ご褒美に固形食料もたくさん(十分な栄養がとれるほど)与えています。
墨天坑のみんなには真実を知らずに、最後まで自分はよくやったなぁと思えるような人生を歩んで欲しいです。だから、電力を優先して墨天坑に供給します。
サン君が手紙に『地上においで』と書いたのは、あなたが地上に来ることはないだろうと確信していたからです。
ただし、できることはやりたいです。だから、宇宙に救難信号を垂れ流します。
言葉が同じではない宇宙人に『SOS』は通じない。
そして、この広大な宇宙では、『私はここにいる』ということさえ通じればいい。そうすれば、受け取った誰かは来てくれる。
『文明を持つ知的生命体がここにいる』
それを示すには、とある数字を送り続ければいい。
一桁、そして小数点以下は無限に続く。小数点以下50桁もあれば充分意味は通じる数字。
全宇宙かわりのない数字。
その数を知ったシオンは、またヒナたちに会いたくなった。
「ヒナ達、今頃何してるんだろうな」
その答えは、箱庭に電源がついたとき明らかになる。
そして、その時こそが。
一虎がハッピーエンドを奪いにくる日だ。ウミノの見張り付きとはいえ、あとしばらくの猶予はある。
「ウミノさーん」
資料室で、シオンとウミノは古い地図を広げる。どこか懐かしいと思う。
「ウミノさんの祖先は、どこから来たんですか?」
ずっと西のほうらしい。祖先は日の出を追いかけてこの地にたどり着いた。道中には河口と火の山があったと、伝承に残っている。
故郷は、ツチノシタという。かつて地上が炎に満ちたとき、祖先はツチノシタにてその災禍を凌いだとされている。
伝承が正しければ、ツチノシタとは墨天坑の他のシェルターだ。方角からしておそらくは白廣坑というシェルターだ。
実際、ウミノの入れ墨は白廣坑のロゴマークと酷似している。
新人類とは、白廣坑にいた人類の末裔なのかもしれない。
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