第28話 継いで 継がないで

「許してな、シオンちゃん。ウチは一虎ちゃんの味方や」


 ドアのそばに立つウミノは、本当にすまないという目でシオンを見る。

 

「一虎ちゃんは、カンナビの葉巻を吸った地上の民が副作用で弱っていくのを見過ごされへん。せやから、副作用もない、誰でも酔えるハッピーエンドが喉から手が出るほど欲しいに決まっとる」

 

 医療スタッフの腕章は、彼にとってロザリオのようなものである。

 

「ホンマはな、こんなメシなんていらんねん。ウチ、森で採れる山菜とか獣肉のほうが好きやねん」

 

 シオンは返事をしない。資料室に何か使えるものはないか漁っている。

 

「でも、自分シオンが変なこと言うてみんなをパニックにさしたらアカン。そないなことしたら一虎ちゃんがひどい目にあってまう。敵意を持って人が人を殺してしまうかもしれん。それは戦争や。自分ら、それで悲しい目にあってきたんやろ。歴史の本で読んだわ。私は、一虎ちゃんの側に立つ」

 

 

「でもウチ、ホンマは戦争がどんなんなんか分からんねんな〜。本で読んでも、想像がでけへん。人が……あんなことするなんて」

 

 旧人類、という言葉を使わなかった。

 

「なぁシオンちゃん、戦争ってなんで起きるんや?」

「……この世界に神がいないから起きるんだよ」

 顔を上げずに答える。

「……神様ビリケンさんがおらんからやで」

 新人類語に言い換える。

 

「自分らはそう思ってるんやろうけど、ウチらは神様信じてるで」

 シオンは、思わずウミノを見た。

 ウミノは、腕に入れた入れ墨を指さした。

 

「ウチらの祖先はな、遥か西方から旅をしてきたらしいねん。西の方で暮らしてたご先祖様達はな、神様に『東へ向かいなさい、さすれば得るものがある』って言われたんやって。知らんけど」

 

 これは故郷の証や、とウミノは入れ墨を優しく撫でた。

「それで、今がある。今のウチは歴史を学べるし、一虎ちゃんにも、シオンちゃんにも会えた。ウチは神様を信じる」

 

 青霧島のことを思い出す。あの世界には、神がいた。シオンはなんとしても、人間同士が殺し合わないように努めた。全知のヒナは、戦争を知らなかった。

 

「……ヒナ、」

 

 青霧島に神のいない今、ヒナや隼人たちが危ない。

 

 資料室の隅にあるのは、シオンの箱庭。なぜ? 停電をシオン説得の好機と捉えたアル所長が持ち出したのか?

 ポケットには、冷たい隕石。

 

「停電を終わらせる! ウミノさん、誰でもいいので塔台守の人を呼んできてください!

……えっと、停電を終わらせよ思うから、」

 

「わーかっとる!」

 シオンが言い換える前に、ウミノは部屋を出ていった。


 

 

 

 

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