第24話 満天

「話に聞いた通りだ。やっぱりすごいな…… 蒼電塔」

 

 愚神派研究所の職員と一虎の視界は、ほとんど蒼電塔の巨大パラボラアンテナで埋め尽くされている。

 墨天坑の出入り口から数kmのところに蒼電塔が見える。

 その反対側百メートル先には軍用テントが十張りほど用意されている。明かりがつき煙がのぼり、賑やかな声が聞こえるものは大地の民のテントであろうか。手前にある明かりがついていないテント二つは愚神派のものであろう。

 キャンプ地側の視界は開けていて、地平線ギリギリまで星空が見える。地面は平坦で、よく均されている。停電騒ぎが起きる前は、普段一虎が整備していたそうだ。

「空に手が届きそうだ」

 

「ささ、こっちですよ〜」

 

 一虎がシオンらをテントへと案内する。カンテラの灯が頼りなく揺れる。

 

「イテ」

 シオンは石につまずいた。整備が足りないぞ、と揶揄っていると思われたくない。シオンは何も起きていないフリをして、捨てる先もないその石をポケットに入れた。妙に重い小石だった。どこか懐かしい気がした。

 

 

「必要物資はテントの中にご用意しております。その他ご必要なものがあれば、すぐお持ちいたします。トイレ以外の用事でテントからは出ないでくださいね」

 

 

 墨天坑の水道設備は活きているのでトイレもそこを使うことになっている。

「大地の民の友人に会いたいんですけど……」

 職員のアビがおずおずと手を上げた。ちらりと隣のテントに目をやる。

 シオンも、この機会に蒼電塔のサンに会えると思った。サンは何度も手紙をくれているのに、そういえば愚神派に配属されてから一度も地上に上がっていないのだ。

 

「駄目です。テントから出ないでください。お手紙なら俺が届けますから」

 一虎の有無を言わさぬ返事。アビは俯いた。

 

 一虎がいなくなったあと、研究所の職員たちは男女別れてテントに入っていった。

 

 

 揃ってテント泊…… といえば雑談や怪談などで盛り上がるのがセオリーだが、それらをするには愚神派たちはあまりにも疲れ果てていた。

 3日弱、階段を登り続けたのだ。皆疲労困憊している。支給の毛布にくるまり、皆すぐに寝入ってしまった。

 

 心地よい肉体的疲労。目を閉じた先の浮遊感と加速感。瞼の裏に光が走る。

 自転車に乗っているようだ、とシオンは思った。あの日、ヒナと天体観測をした夜に乗った自転車の速さに似ている。

 

「……」

 

 ポケットに手を入れる。明らかにただの石ではない重量感。その冷たさがシオンの意識を現実に引き戻す。

 

「これ、隕石だ」

 

 シオンは起き上がる。他の誰も、目を覚ましてはいない。

「行かなきゃ」

 

(なんのために?)

 

 ヒナの声をした空耳が問いかける。

 

「ヒナの言う、『いい神様』になるためだよ」

 

 テントから顔を出す。一虎の姿はない。

 シオンは真っ暗な蒼電塔へと歩いていった。星が綺麗な夜だった。

 

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