第23話 地上の民の虎

「非常用電源で1週間の明かりだけでも確保できて良かったですよね」

 

 ところで、この世界の大人(15歳以上)は大きく3種類に分けられる。

 ひとつ目はキャラバン隊(大地の民)。蘇らせたわずかな旧世界犬を連れ、食用動植物を求めて世界を旅する。旧人類の大半が大地の民だ。

 ふたつ目は塔台守。墨天坑付近の巨体アンテナで働く。蒼電塔は宇宙に向けて『私達はここにいる』とメッセージを垂れ流す、天体を観測するなど、天文台のようなことをしている。さらに、太陽エネルギーを集めてエネルギーを供給している。

 この停電の原因は蒼電塔の不慮の事故である。

 そして、愚神派。墨天坑のさらに深いところに潜る。シオンたちがしているように、別世界を育成、操作してそこから知見を得ようとする民。

 

 愚神たちは歩く。明かりを求めて地上を目指す。

 

「地下暮らしは快適ですけど、如何せん電源が切れると何もできませんからねー」 

 

 

「愚神派のみなさーん! お迎えにあがりましたよ〜」

 地上から、20代後半くらいの青年が降りてきた。日中は外で行動していたのだろうか、目の下を黒く塗っている。腕には『医療スタッフ』の腕章と、手づくりらしき『案内人』の腕章。


「こんばんは、私は地上の民の一虎です。皆さんのお目付や……いえ、地上の案内人です。地上まではあと1時間も歩きませんよ。これから電力供給が復旧するまで、よろしくお願いしますね」

 

 一虎は旧人類にしては珍しく体格の良い男であった。力も強いらしく、研究所職員たちの荷物持ちを楽々手伝う。

 

「皆さんの分のテントはご用意しております。男女別で大きいテントになります」

「いいわね〜、お泊り会みたいじゃない」

 最年長の桜が、場に似合わぬ穏やかな声で応える。

 

 

「そういえば、子どもたちはもう地上にいるんですよね?」

「……あ、はい! 停電してすぐテントに移行しました。墨天坑から東に行ったところに涼しくて居心地いいキャンプ地があるので、そこに」

 その関係でテントも個室にできないのです、と一虎は付け加えた。

 今シオンらが歩いている場所は、かつて子供時代を過ごしたエリアだ。見通しの悪い大きな螺旋階段沿いに、子供サイズに改築されたドアが並ぶ。

 

「懐かしいな」

シオンはドアノブに触れた。少し埃が積もっていた。


「さあさぁ、着きましたよ! 地上へようこそ、愚神派の皆さん!」


核戦争を恐れて造られたシェルターの重い重い門扉はすでに開け放たれている。

扉の向こう、最年少のシオンですら忘れかけていた夜空は、失明したのかと思うほど真っ暗だった。






 

 

 

 

 

 

 

 

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