第3話 酒を飲む猫

 昨日は、本当に疲れていた。

 帰りに食べに出るのも面倒なので、16時過ぎに外に出る機会があった時を利用して、市役所の食堂でハヤシライスを食べておいた。大盛りというと、普段以上の寮のご飯を入れてくれた。

 なんか、得した気分。

 この食堂は17時過ぎまでやっているそうだ。

 

 帰りに立ち飲み酒屋でキリンビールの大瓶1本飲み、帰って来てからは特につまみも用意することなく、ウイスキーのロックを一杯だけ飲んだ。

 程よく、酔いが回った。正直、食べるのも飲むのも大儀な気分だった。

 ネットのメールチェックを済ませ、20時過ぎには電気を消して寝床に入った。


 一度、23時過ぎに目覚めた。トイレに行って小用を済ませ、さあ、また寝ようと横になったそのとき、携帯電話が鳴った。ある大学人からだった。

 「明日時間があれば、公開講座のレジメの組立と「折り」を40部程お願いしたい」

 明日の朝のうちは時間があるので、その仕事を受けることにした。

 折角起きたことでもあるし、メールのチェックなどをいくらかして、20分後には、再び電気を消して寝床に入った。


 次に起きたのは、夜中の2時半ぐらいか。

 また、トイレに行った。

 そしてすぐまた、横になった。

 眠りに就けるともつけぬ状態で、いろいろ、構想を練る。

 だが、真っ暗な部屋で横になっていれば、やがてうとうとする。気づいたら、浅い眠りについていたはずである。

 なぜなら、自分の周りではありえない光景が展開していたから。


 なぜか、私の近くに、猫がいた。オスともメスとも判別しかねるが、三毛猫のような毛柄で、それこそ、「タマ」とでも名付ければぴったりのような猫だ。

どういうわけか、この猫さん、ニャーともニャンとも言わない。

 私のところに寄ってきて、手をつかんで軽く噛んでみたりする。

 しばらくいないな、と思っていたら、彼は、前足で缶ビールを抱え、後ろ足だけで歩いて、廊下にやってきた。私が寝ている部屋は、どういうわけか、横に開閉する仕切りがある。

 

 こんな場所で寝ていた時期って、あったかな? 

 あ、あるにはあった。幼少期を過ごした養護施設だ。

 それも、小6の初めごろに移転した先の、今もある、あっちの建物のほうだな。

 そういえば、あそこはそんな感じの場所だった。

 その缶ビールは、全体的に銀色の下地に黒の文字。

 その銘柄、はっきりと覚えている。


 「アサヒ スーパードライ」


 部屋の入口を開け、缶ビールを持ち直し、猫は廊下へと出て行った。

彼は黙って、その缶ビールの栓を開け、ビールを床に流した。そして、水飲み場で水を飲むときの要領で、ペシャペシャとビールを舌で舐めながら、飲み始めた。

 大丈夫だろうか、こいつ・・・?


 そうこう思っているうちに、彼は、さらにビールを床に流す。

 なぜか今度は、猫よりもいささか大柄な犬までがやってきて、大きな舌で舐めながら、ビールを飲んでいるではないか。

 うまいのかな、こいつらにとって・・・?

 

 しばらく、私は布団の中で寝ていた。

 目覚めると、先ほどの猫がやってきて、私の右手を前足二本でつかんで、どこかの指を噛もうとしていた。

 

 こら、わしゃ、酒のあてちゃうで!

 そう思っていると、目が覚めた。


 うちにはもちろん、猫も犬もいない。養護施設にいた頃には、確かに、犬や猫がいた時期があるにはあるが、あのときの犬や猫は、あんな感じじゃなかった。

 さらに言えば、うちはワンルームのアパートで、目の前は、引き戸である。

 

 目の前においてある25年物の目覚まし時計を見ると、時計の針は午前5時前。

 10月下旬だけあって、辺りは、まだ暗い。

 トイレに行って、そのまま、横になった。


 再び目覚めたのは、午前7時。

 今朝の天気は雨模様だから、幾分暗いが、それでも、辺りは明るくなっていた。

 11時間近く横になって、疲れも、かなり取れた。

 まずは、パソコンを開いてメール等のチェックから。

 水分補給用の麦茶をブランデーグラスに入れて、寝起きの水代わりにしつつ、パソコンで書き物を一つこなした。


 朝のラーメンを食べに行こうと思っていたが、例の頼まれ先の方向と違うので、予定変更。しばらく自宅で仕事して、頃合いを見て事務所に行って作業して、それから、大学近くのカレー屋でカレーを食べることにしよう。

                   (終 2019・10・29筆)

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