第1話 やめてくれ!

 

2020.03.10


 なぜか、私にものすごく好意的に接してくださる人がいた。年齢的には少し上のようだ。ただ、相手は30代前後に見えたので、私はせいぜい20代半ばぐらいだったのだろうと思われる。とにもかくにも、世話を焼いてくださる。

 何かあれば、飲みに連れて行ってもらったり、飯を食わせてもらったり。


 あるとき、クルマでお誘いが来た。なんでも、とある丘の上で飯を食おうというわけだ。ま、ピクニックのようなものだな。うれしいことに、若い女性も何人かいる。われわれは、とある丘の上の、公道から私道へとはいる曲がり角あたりにクルマを停め、その近くにビニールシートを出し、飯を食い始めた。


 なぜかふと、この先にある建物は、私のいた養護施設であると気づいた。

 「実は、この道路の向こうは、私のいた養護施設でして」

 「へえ、そうなの・・・」先輩は、いささかびっくりしていた。

 「ちょっと、あいさつに行ってきますね」

 「そうか、私も行こう」

 ついていこうとする先輩を、私は、必死で止めた。

 「お願いだから、それだけはやめてください!」

 その後どうなったかは、覚えていない。特にその先輩が怒ったようでもなかった。ただ、必死で、私はその人があいさつに行こうとする私についてくるのを止めようとしたのだけは間違いない。

やがて、気が遠くなって、記憶を失った。


 そうこうしているうちに、目が覚めた。

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