七つの石と半妖精ユニの物語
朝矢 真宗
第1話
『オレは思うのだが、我々は完全に奴の魔道の罠にかかったぞ。ほれ、ここを通るのはもう7回目だ』
「わかっている、お前は少しくらいなら黙れないのか?」
『それが無口な石の精であるこのオレに言う言葉か?だいたいオレはお前に従ういわれはないのだぞ!』
石の精の反応に流石にカッとなったユニは、感情を隠すこともなく石を怒鳴りつけた。
「誰が付いてこいと言った?お前が勝手に俺に従っているのだろう?お前なんか・・・」
ユニは石を腰の皮袋から取り出すと、今にも投げようと振り上げた。
『うわ!ま・・・待った!もう黙るから!・・・そうだ!それよりこの森を抜ける手立てを考えなくてはならぬぞ!その際、道に密接な関わりのある『石』であるオレを一緒に連れていると何とかなるかも・・・』
「わかったよ・・・。」
ユニは石を再び腰の皮袋にしまった。
これが自分の甘さであることをユニは百も承知していたが、今更自分本来の性格を変える気にはなれなかった。
ーまったく、こいつは本当に厄病神だよ・・・。
ユニの心を読んだかのように石は口を開いた。
『たしかにオレがおまえと共に旅をするようになってから、多少トラブルが多いかもしれんが、それはオレのせいではないぞ。だからオレをどっかに厄介払いしたら何とかなるという考えこそ、どっかに放り投げるが良い』
「うるさい!さっさとこの『輪』から抜け出す方法を考えろ。それとももう一回りしたいか?」
『悪いが、すでにもう一回りした後だ。ほれ、あそこの右に転がるあの黒い石ころ、覚えているか?つまり、もう8回同じところを歩き続けて・・・・』
「そんなことは聞いてない。どうやったら出られるかを聞いているのだ」
『悪かったな、オレの考えによるとだ。俺たちは見かけに騙されているわけだから・・・、そう、おまえの体の半分もこの「みかけ」でできているわけだが・・・そもそも我々精霊はおまえのような「みかけ」でできているものどもより根本的にだな・・・・』
ユニは無言で石を腰の皮袋からとりだした。
『!!・・・つ、つまりこの道の周りに広がる森が怪しいわけだ。石の精であるこのオレ様の特殊感覚によると、地面の存在はたしかなのだが、どうも・・・・』
「さっさと結果だけを言え」
『わかったよ、ひとつだけ言っておくが、おまえはオレに命令する権利は・・・』
「結論を言えといったのだが??」
『そ、その・・・木々は幻覚だから眼を閉じてまっすぐ歩けば良いんだよ。ほら、本当の森の中なら気のせいとかの力があふれているだろう?見えるかい?』
そうだ。この森にはいってから感じた違和感のナゾがやっと解けた。ここには木々の精がいないのだ。
『地面の存在が確かなことは、石の精であるこのおれが保証するからさ・・・・うわっぷ』
ユニは無言で石を皮袋にねじり込むと眼を閉じて歩き始めた。
所々感じる木々の精の弱い力はおそらく本物なのだろう。だが、明らかに木々の精の力を感じないところがいくつもある。そこに向かってまっすぐ歩き始めると、ぶつかるはずであった木々に触れることはなく、彼は進むことができた。
あの魔道士の魔力を再び破った喜びに、ユニは軽く微笑みを浮かべた。
七つの石と半妖精ユニの物語 朝矢 真宗 @2boldly5
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