第13話' 「応神東征」(後編)

 ちなみに、応神天皇の誕生についてはいわくがある。応神の父 仲哀天皇は 神功皇后が海を渡る直前 不意に亡くなっているが、にも関わらず、彼女は子を身籠った状態で出兵を強行。出産しては戦闘の妨げになると考え、

 この逸話から、応神天皇の本当の父親は、仲哀天皇ではないのではないか,実は ここで王朝交代が起きたのではないかと疑われている。

 そして この場合、応神の父として 最も有力な候補は、常に神功皇后の傍らにあって彼女をたすけた武内宿禰たけうちのすくね建内宿禰たけしのうちのすくね)。彼は、もう一つの歴史書『古事記』においては 蘇我氏の祖とされていた。

 なお、正史『日本書紀』においては、彼を蘇我氏の祖とする記述はない。

 こぼれ話ではあるが、武内宿禰は 戦前は、日本銀行券の顔としても採用されていた。

 この武内宿禰は 5代の天皇を300年に渡って支えたとされる伝説上の忠臣だが、一説には住吉大神や塩土老翁・塩筒老翁らと同体の神ではないかと囁かれている。

 このうち、塩土老翁は 山幸彦(彦火火出見)を導いた神であり、塩筒老翁は 初代 神武天皇(彦火火出見)に助言をした神だった。

 私は、英雄 天武天皇が構想していた神話は次代 持統女帝によって改変されたと愚考しているが、もともと天武が企図していた初代, は 応神天皇その人であり、伝承や近しい存在などにしても応神天皇の方がオリジナルで前にあって、神武天皇のそれは 応神天皇のものを複写したものだと私は妄想していた。

 確かな実体等がある存在だったからこそ、初代 神武天皇ではなく 第15代 応神天皇が、武運の神として崇敬されているのだろう。

 ただ、恐らくは第15代に似つかわしいように様々な改変・焼き直しはあったかと思う。とは言え、タタリが恐ろしくて重要なところは完全には変えられない。仄めかす・暗示する・匂わせるといった形でもいいから、原型の影は残しておく。

 それでも、本当に都合の悪い事は やはり隠蔽したのではないかなと私は検討している。私は、英雄 天武天皇は 蘇我氏の人物であり、彼は 二王朝の交代を正史の中で画策、自らの即位の正当性を訴えたかと探究しているが、そことつながるような事実は 正史には表面上残されていなかった。

 そして、このような場合においては、英雄的な要素を付加するなどして、古霊の怒りを買わないように努めたのではないかなと私は当て推量している。神功皇后の例は その好例であるかもしれない。


 つまるところ、私は 第15代 応神天皇こそが英雄 天武天皇が元来 構想していた初代大王だったと判じているが、いわゆる天武朝の最後の時節に、その事実を裏付ける決定的な事件が発生していた。

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