第8話 万世一系の構想(前編)

 天智の娘である第41代 持統女帝は、天皇家の正統な血統を 残そうとしたのではないかと一説には高察されている。

 持統の先代 天武は一部でその素姓が疑われており、その崩御後(686年)、天武の后 持統は自らと天武の間の子 草壁くさかべの擁立を企図。草壁の薨去(689年)によって それが実現せずに終わると、自ら即位し(690年)、爾後 草壁の子,すなわち孫への皇位継承を実現させた(697年)。

 当時、諡には その天皇の生前の業績などが反映されていたが、是に"血統をたもつ"という意味の諡号が贈られた。

 天武帝の崩御後 3年の皇位の空白期間の後、持統は即位しているが、彼女にとって 目の上の瘤は 天武の長子 高市皇子たけちのみこだった。一般に、高市皇子のことだと解される"後皇子尊のちのみこのみこと"は 696年に亡くなっているが、実に その翌年に、持統は孫への皇位継承を実現させていた。

 その事跡は 皇祖神 天照大神の「天孫降臨」神話に投影されたと臆度されているが、その妨げとなったのが、スサノオの子 大国主命。私は 天照大神の妹背 スサノオを天武天皇だと見立てているが、このことからも"大国主=高市皇子"の存在が、持統の政権構想・運営上、障害となっていたことが窺われた。


 私は、天智の娘 持統は 先代 天武を否定したかったのではないかと狐疑している。

 だが、至尊の座に就いたとは言え、強大な対立勢力が存在している場合、そのようなことが 大っぴらにできるはずもない。さりとて 何もしないのも癪に触る。そのような状況下で、女傑 持統は一体どうしたのか? 私は、彼女の苛烈な性格から鑑みるに、持統はカモフラージュしつつも、神話において 象徴的な位置にある人物を 自らと近しい人物と置き換え、密かにマウントしていたのではないかとニラんでいる。それは 事実だとすれば、一歩間違うと、対立を激化させかねない大胆不敵な行動だった。

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