第91話-件-
ケイトの愛犬、カンナが子犬を生んだ。
カンナは実家で飼っていた柴犬だったが、丁度仕事が休みの日に出産しそうだというので、ケイトは久しぶりに実家に帰って来たのだ。
出産は無事に終わった。
三匹の兄弟だったが、その中の一匹は生まれてすぐに死んでしまった。
奇妙な言葉を残して。
ケイトが調べて見たところ、あれは「
動物の子供にたまに、人の顔、獣の体で生まれて来る妖怪で、生まれてすぐに不幸の予言をすると死んでしまうという者らしかった。
しかし、ケイトのもとに現れたソレは、この件とは少し違うモノらしかった。
というのも、その子犬には人の頭などついていなかったのだ。
予言をしてすぐに死んでしまったのも確かだが、不幸の予言などではない。
頭の中に直接響いた声は、確かにこう言った。
「田淵ケイトは、一年以内に結婚する」
これが本当なら、不幸の予言どころか吉報ではないか。
一人暮らしで彼女もいないケイトだが、結婚したいとは常々思っていたのだ。
件の予言は必ず当たると書いてあった。
さすがにこんなおかしな話を周りに言って回ることはできないが、密かな期待に胸を躍らせながら、ケイトは日常を過ごす。
そして二年後。
件の予言は当たっていた。
あれから一年後に、ケイトは会社の後輩と結婚することになった。
今は子供も生まれて、毎日忙しい日々を送っている。
奥さんには逆らえず、気難しい子供の面倒を見ながら、仕事と家庭の中でクタクタになりながら頑張り続ける毎日。
「不幸の予言てのは、あながち間違いじゃなかったかもなぁ……」
そんなことを呟きながら、ケイトは隣で眠る二人の寝顔を見て、静かに微笑んだ。
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