第89話-ハサミ-

 つい二週間前、祖父が亡くなった。

 前から心臓を悪くしていたが、家で発作が起こり、それきりだった。


 そして昨日、母が亡くなった。

 家の中で、何者かにはさみで切り殺されていた。


 親戚はみんな不幸は続くものだと言った。

 父はみんなから同情されていた。


 だが僕は知っている。

 祖父を殺したのは母だ。


 祖父は、母から見て舅にあたり、以前から折り合いが悪かった。

 だから祖父が発作を起こした時、母は祖父のそばにいたのに何もしなかったのだ。


 葬式の最中、母は密かに笑っていた。


 そして更に僕は知っている。

 母を殺したのは祖父だ。


 僕は見てしまったのだ。

 祖父の形見のはさみが、ひとりでに飛び回って母を殺すところを。


 あのはさみは、生前祖父が新聞記事を切り取るのによく使っていたものだ。

 きっと自分を殺した母に復讐をしたのだろう。

 あるいは、元から殺してやるつもりでいるのか。


 しかし二人とも、わざわざ仏壇の前で仏を増やすことは無いじゃないか。

 僕は静かに家を去った。

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