第57話-人形-

 これは、私がまだ6歳の頃の話です。


 私の家には、一体のフランス人形がありました。

 60センチくらいの大きな人形で、目がぱっちりとしたかわいらしい人形です。


 白いひらひらとした服を着ていて、まるでお姫様みたいで小さい頃は憧れていました。


 ずっと飾って置いてあるので、お人形遊びに使えるようなものではありませんでした。

 子ども心に、あれは汚しちゃいけないと思っていましたしね。


 ただ、人形自体はとても好きだったので、向かい合って座ってじっと見つめていたりしました。


 ただこの人形、少しおかしなところがあって。

 目が閉じるんですよね。

 いえ、可動部位とかの話ではありません。


 夜になるとひとりでに瞼が下りるんです。

 そして、朝になったらまたぱっちりと目を開けている。

 まるで夜になると眠る人間みたいに。


 最初、それを知っているのは私だけでした。

 でも子どもって何でも話したくなるものですね。

 親にもそのことを言ってしまったんですよ。


 当然、気味が悪いのでその人形を捨てようという話になりました。

 その人形はお気に入りだったから小さい頃の私は泣き出しちゃって。

 最後まで抵抗したんですが、結局捨てられてしまいました。


 で、ここから先は私自身覚えていないので親から聞いた話になるんですが。

 どうやら私、その人形を拾ってきたみたいなんですよ。


 朝起きたら、私が玄関で昨夜捨てたはずの人形を抱えて寝てたんですって。

 6歳の女の子が、夜中に家を抜け出してゴミ捨て場から人形を拾ってくるなんて、両親も驚いたでしょうね。


 余計不気味に感じた両親はどうしても人形を手放したかったみたいで、また人形を捨てるんですが、その度に私が拾ってくるんですよ。


 夜見張っていてもいつの間にかいなくなっていて、朝になると帰って来て玄関で寝てるんです。

 それで、同じことを三回も繰り返したみたいで。


 そこまで来て両親も諦めたそうです。

 もっと遠くに捨ててもいいけど、私がそこまで歩いて取りに行ったりしたら危ないからって。


 壊してしまうという手もあったんでしょうが、どうもそれも不気味に感じたみたいで。


 その人形は実家のもとの場所に置かれることになりました。

 まあ布がかぶせられちゃったんですけど。


 実は、一人暮らしを始める時に、実家から持ってきちゃったんですよね。

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