第54話-落ち武者と侍-

「おー、お待たせ」

「おう、丁度終わったとこだぞ」

「そっか、じゃあ次は俺が……」

「だめー。啓介は僕と替わって四番目だよ!」


 樹がニヤニヤとしながら告げると、啓介は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしながら元の場所に戻った。

 トリを押し付けられたと悟った啓介は軽く反発したが、涼が話し始めると、観念して大人しく耳を傾けだす。


「ったく、しゃーねーな」

 啓介は結局観念して、新しい菓子を取り出しながら話を聞く姿勢を取った。


「ネタ切れ気味だし、ネット解禁してるからな」

「おっ、これなんかよさそうだな。これは、東京がまだ江戸と呼ばれていたころの話です……」



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 とある月夜に、提灯も持たずに水戸を歩く一人の侍がおりました。

 彼は友人に呼ばれて茶屋に行っていたのですが、少しいるだけのはずがついつい長居してしまい、そのうちに日がとっぷりと暮れてしまったのです。


 侍が急いで家に帰ろうと速足で歩いていると、前に立ちはだかる人影がいました。


 生気のない顔。定まらない視点。

 そして、戦国時代の武者のような鎧。


 あれは落ち武者の亡霊だ、と侍は直感しました。

 この辺りは戦国の頃無人の平野で、戦場になったこともあったのでした。


「某ト、勝負セヨ」

 落ち武者が、低く不気味な声で語りかけてきます。

 侍は不気味に思いましたが、勝負を挑まれて逃げだすことも出来ず、渋々ながら応じました。


 侍は刀を抜いて、亡霊と向き合いました。

 亡霊も、不気味な空気を纏った太刀を振り上げます。


 次の瞬間、二振りの刀が月の光に閃きました。


 金属音が高く響き、二人は背中合わせになります。

 次の瞬間、落ち武者の幽霊はゆらりと消えてしまいました。


 侍は勝利したのです。


 そのまま侍は家に帰ったのですが、家に入った瞬間に糸が切れたように倒れこみ、そのまま寝入ってしまいました。


 次の日から侍は、熱を出して寝込むようになりました。

 彼の妻は医者を呼び、懸命に看病をしましたが、その侍はとうとう五日目に死んでしまいました。


 刀を持った幽霊は、今でも都内のどこかに出るそうです。





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