第44話-水泳-

 今年はプールにはもう行った?

 僕はもう毎年行くんだよね。ちゃんとしたコースもあるところで、毎年五十メートル泳いで弟とタイム計ったりするんだ。

 でも、あんまり競争に夢中になっちゃだめだね。


 うちの高校の水泳部は、所謂強豪校ってやつだったらしいんだ。

 うちのクラスにも、全国大会に出場してる女子部員がいたんだ。

 あんまり話したことは無かったけどね。


 その女子、二年生の夏に消えちゃったんだよね。

 そう、行方不明。

 しかもみんなが見てる前で、らしいんだ。


 その時の状況はこう。

 大会に出るための選抜を、学校のプールでやっていた時。

 その子は一年生の頃から天才って言われてて、二年生でながら三年生にも負けないほどの実力があったんだ。


 三年生は最後の試合なんだけど、実力主義の世界だからね。

 二年生でも三年生以上の力があれば先輩を押しのけて大会に出ることが出来る。

 まあ三年生は面白くなかっただろうね。


 で、その子の番になった時。

 プールの中のコースをクロールで半分ほど泳いだとろろで、さっきまで激しく上がっていた水しぶきが突然消えたんだ。


 溺れでもしたのかと思って顧問の先生が飛び込んでプールの中を探したけど、どこにも見当たらない。

 その子は皆の前で、忽然と姿を消したんだよ。


 プールサイドが騒がしくなってきたころ、一人の三年生が泣き崩れた。

 嗚咽がひどくて、言葉がまとまってないし何を言ってるのか分からなかったんだけど、なんとか落ち着かせて話を聞くと、どうやらその先輩は自分のせいで彼女が消えたんだと言っているらしかった。


「あの子さえいなければ自分が試合に出られると思って、おまじないくらいのつもりで呪いの真似事をした。タイムを計るときにちょっと調子が悪くなればいいくらいに思ってた」って。


 まあ、本当にその先輩のせいで彼女が消えたのかは分からないけど。

 ただ後で聞いた話では、その先輩は大会を待たずに水泳部をやめちゃったらしいよ。



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