第45話-ゾンビ-

 よく話に出て来るし知名度も高いけど、日本でゾンビが出て来る話ってあんまりないと思わないか?

 西洋のお化けってイメージ?

 でもな、いたみたいだぜ。日本にもゾンビ。


 近所に住んでて小さい頃遊んでもらってた兄ちゃん……今はおじさんだけど。

 親と喧嘩して、家出同然でこの街に来た人でさ。

 その人が数年前、親の葬式に行った時の話だ。


 両親とも、事故で同時に亡くなったらしい。

 十年以上も経って今更どんな顔して葬式になんて出ればいいんだと思う一方で、たった二人の親だからな。

 もうがみがみと説教されることも無いんだと思うとなんだか寂しい気もして、実家に帰ることにしたらしい。


 葬式では泣くことも無く、なんだか現実感の湧かない状態でボーっとしていた。

 喪主はお兄さんが勤めてくれていたから、その人は式の間中ずっと隅っこにいた。


 お兄さんもバタバタしててほとんど話せなかったし、急なことで宿の確保も出来てなかったから、実家の元々自分の部屋だった場所でその日は夜を明かすことになった。


 部屋は物置みたいになってて狭かったけど、なんとか一畳分くらいのスペースを確保して、布団を敷いた。

 実家から自分の痕跡が消されているのは、なんとなく虚しかったって言ってたよ。


 その日の夜のこと。

 何か圧迫感を感じて目を開けると、目の前に両親が立っていた。

 白装束を纏っていて、最初は幽霊かと思ったけど違った。

 手が、自分に触れてるんだよ。


 生気のない顔で、自分の首に手をあてがっている。

 しかもその手はひんやりと冷たい。

 その手に圧迫されて息が苦しくなる。

 妙に力が強くて、首の骨が折れるほど痛かったって。


「死体だ!」と思った。

 そして、両親の死体が、自分を殺そうとしているのだと悟る。

 そんなに自分を恨んでいたのか、と思うとやるせない気分になって、必死に体を起こしながら腕を振り払った。


「やめろ!!!」


 そう、自分が怒鳴った声で目が覚めた。

 窓の外からは、わずかながら光が差し込んでいるのが見える。

 そう、夢だったんだ。

 でもなんだか夢だとは思えないような、妙に現実感のある夢だった。


 ところでこの話を聞いた時、俺ずっと気になってたことがあってな。

 本人は何も言わなかったけど、その人の首元に紫色のアザがあったんだ。

 まるで、強い力で首を絞められたみたいなな。

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