第38話-鏡-

 鏡が異世界につながってる、みたいな話あるだろ?

 実際、異世界への扉みたいに言われることも多くてさ。

 怪談でもよくあるだろ?鏡の中に引き込まれる話。


 とある男に起こった話だ。

 その男は、ある日を境に、鏡の向こうの異世界が見えるようになった。


 見間違いなんかじゃない。

 なんせ、鏡の中の光景は本来見えるはずのものとまるで違う上に、どれだけ凝視しても消えてなくならないんだから。


 鏡の中の世界にも、色々と種類があった。

 ファンタジーみたいなのや、江戸時代みたいな光景。

 何もない野原や砂漠のこともあった。

 逆に、明らかに現代の日本なんだけど、本来映るはずの景色とは全く違うところ、なんてパターンもあったみたいだな。


 一番怖かったのは地獄みたいな世界が映った時で、聞こえないはずの亡者の叫び声が聞こえた気がしたらしい。


 鏡の中の世界は、いつ現れるか分からない。頻度もまちまちで、一日に何度も出て来ることもあれば、三日ほど出てこないこともあった。

 そして、どこの鏡に現れるかもわからない。


 一度現れたら、どれだけ見つめていても消えないこともあるし、数秒で見えなくなることもある。

 音は聞こえないし、においも感じない。


 ああそれと、向こうの世界に人がいたとしても、向こうからこっちが見えることは無い。

 これが、今のところ色々見てきて分かったことらしい。


 その人が今どうしてるか?

 別に、どうもしてないよ。

 積極的に謎を解明するでもなく、時々現れる異世界を楽しんでるみたい。


 多分、今日もどこかの鏡に、何かが映るんじゃないかな。

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