『無視』の物語

悠 武 (はるか たける)

不思議な人

「ワタルくん」


「あ……、う……」


「え?どうしたの?」


「あ……」


「……変なの」


「…………」



   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 僕は友達を作らない。

 絶対に作らない。

 なぜかって?

 理由は自分でもわからないが、友達を作らないという思いが心にしみている。


 でも作らないというのは難しいことだ。

 少し話しただけで友達と思われるかもしれないので、常に気を付けている。


 友達を作らない方法として、僕がやっているのはとにかく無視することだ。

 何を話しかけられても無視。

 嫌われるけど嫌われるのが狙いだ。



 学校に着き、クラスに入り席に座った時の事、誰かが近づいてきていきなり話しかけてきた。


「やあ! 元気? ワタルくん」


 誰だ?


 僕に話しかけてきたのは、身長が低くておとなしそうな顔の人だ。


 なんでいきなり話しかけてくるんだ?

 全然知らない人だぞ。


「…………」


 僕は無視をする。

 急であれ冷静に無視をする。


「昨日やってたバラエティーみた?」


「…………」


「僕プリン大好きなんだよね」


「…………」


「話したいんだよね」


「…………」


 なんなんだこの人。

 無視しているのに関係なく話しかけてくる。

 おとなしそうに見えてしつこいやつだ。


「ウホほーいウホほーい」


「…………」


 ほんとになんだ!?

 おかしくなりやがった!?


 授業が始まるまでずっと話しかけられて迷惑だった。




 一日だけだったらまだマシだろう。

 なんと一週間も同じ奴に話しかけられたのだ。


 意味が分からなかった。


 なんなんだ!

 そんなに話したいのか!

 そんなに友達になりたいのか!

 

 いつまでのつもりだろう。

 もしこのまま一年続いたら最悪だ。


 ここは無視をやめるべきか?

 ずっと話しかけれられるよりはてきとうに話して終わらせる方がいいかもしれない。

 よし、そうしよう。

 これは特別だ。


 僕は何とかこの状況を変える為、頑張つて話すことにした。




 翌日、クラスに入るといつも通りにおかしな奴が話しかけてくる。


「やあ! 今日はいつもと違う顔だね」


 何を言っているのかさっぱり分からないが、僕は返答する。


「…………」


 僕は返答する。


「…………」


 !?


 あれ!?

 おかしいなあ!?

 声が出ない!?

 久しぶりに話すからかなあ?


 僕はお腹に力を入れ声をだそうとする。

 が、そもそもお腹に力が入らない。

 なんで!!


 そしてなぜか胸が苦しかった。


 なんだこの感覚!?

 どうなっているんだ!!


 わからない、わからない。

 だが、

 その時封印していた何かが目を覚まそうとした。


 ああああ!!

 やめてくれ!!

 覚ましたくない!!

 やめて!!


「大丈夫だよ! ワタルくん!」


「…………!?」


 え?


「安心して! 僕は分かってるから!」


 な……に?


「本当は君がしゃべれないということわかっているから!」


 その言葉を聞いて、僕は何かを思い出しそうになる。

 いや、思い出した

 ぼくはしゃべれないんだ。



 僕は昔から他人と話せなかった。

 その理由は、すごく緊張して声が出せなくなるからだ。

 コミュニケーションができないんだ。


 僕はそのこと忘れていた。

 なぜ忘れたのかはわかる。

 思い込んだからだ。


 悔しかった。

 話せないのが悔しいから考えを変えたんだ。

 話せないんじゃない。

 自分がわざと喋ってないんだと思い込むようにしたんだ。

 強く思い込むうちに忘れてしまっていた。

 本当に忘れていたのか……。


 ん?

 待って?


 でもなぜその人は本当は僕が話せないということが分かったんだ!?


 「それはね、顔で分かったんだよ」


 !?


「僕は顔の表情から人の気持ちを読み取るのが得意なんだ。君は無視をしているとき話したい気持ちを隠していた。なんでだろうと思い考えたら、君は無視じゃなくて話せないんだと分かったんだ」


 …………すごい人だったのか。


 感謝しないと。

 思い出させてくれたことを。


 …………で、どうなる!?

 思い出したからなんだ!

 人と話せないのは昔と変わらなかったじゃないか!!

 トラウマがよみがえっただけだよ!!


「…………辛そうな顔になってるよ!」


「あ……う……」


 喋れない。

 緊張する。

 悔しい!!


 僕は悔しくてその場から逃げ出した。




 僕はまた学校に行けなくなった。

 過去のトラウマを思い出してしまった。

 悔しい。

 悔しい。


 

 僕は昔のように思い込むことにした。

 話せないんじゃない、無視しているんだと。

 でもこれじゃ前と変わらないじゃないか!

 いったいどうすればいいんだ…………。


 ピンポーン


 インターホンが鳴る。


 僕はインターホンのカメラを見る。

 !!

 するとそこにいたのはあの人だった。

 しつこく話しかけてきたあの人だ。


 …………。

 出でみるか。


 僕はいつも出ないのだが、思い切って出ることにした。


 僕は家のドアを開け、あの人の前に出る。


「やあ! ワタルくん!」


「…………」


「実は提案があるんだ! これ!」


 するとその人は僕に紙と鉛筆を渡す。


「話せないなら、紙に言葉を書いてみなよ!」


 え?

 なんで?


 少しわからず考えていたら、僕に提案してくれてることが分かった。

 何でだろう……。

 でも試してみるか。


 僕は紙と鉛筆を取り、書こうとする。

 だが、緊張して震えて書けなかった。

 …………。

 僕は出来ないという顔をする。


「そうか……、ごめんね。力になれなくて」


 力になる?

 なんなんだこの人!?

 なんで僕を助けようとしてくれるの!?


 「苦しそうにしてたから助けたかったんだ」


 …………。


 その人は僕にもわかるぐらい悲しそうな顔をしていた。


 …………悔しい。

 なんで僕はダメダメなんだ。

 悔しい。


 …………でも何か見えた気がした。


 僕は昔他人と話せないのが変だと思われたことがあった。

 でもこの人は僕を変な目で見ていない。


 こういう人もいる。

 少し希望が見えた気がする。


 彼の悲しそうな顔を見て、僕の悔しい気持ちがやる気へと変わっていった。


 僕はもう一度言葉を紙に書こうとした。


「ワタルくん?」


「…………」


 僕は今までにない力を入れて書こうとする。


 震える。

 震える。

 緊張する。

 

 でも、

 今日ぐらいは、

 止まってくれ!!


 そして…………。


 震えながらも僕は紙に言葉を書いた。

 『ありがとう』と。


「すごい!! ワタルくん!!」


 その人はとても喜んでくれた。

 僕もとても喜んだ。

 

 喋ることはできなかったが、思いは伝えられた。

 僕の中で何かが変わった気がした。


「ワタルくん! これからも話せるように協力するよ!!」


 これからも?


「今変われたんだ! きっと人と話せるなるよ!!」


 今までに感じたことのないやる気のような感情。

 今まで暗かった道が明るくなった気がする。



  ◇◇◇◇◇◇◇◇



「ワタルくん」


「なにー?」


「午後遊ばない?」


「もちろんいいよ」


「よし!」


「うん!」





 

 





 

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『無視』の物語 悠 武 (はるか たける) @takerutakeru

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