094.晴れ晴れと

「ダニエル様、ナルハ様、おめでとうございまっす!」


 ご挨拶メンツに混じって、近衛隊制服の若者がいそいそとやってきた。おー意外と似合っているぞ、フィーデル。


「フィーデル様、ありがとうございます」

「やあ、フィーデル。楽しんでいるかい?」

「ええ、もちろん。……終わったら速攻で帰ってこい、ってガレル様にきつく言われてますけどね」

「あら」


 苦笑しながら頭をかくフィーデルに、俺たちもつい笑顔になる。まあ、ダニエルは新婚ということでちょっとお休みもらってるけど、お前さんは参列者だもんなあ。この後すぐ帰って仕事に戻るのか、大変だな。

 学園卒業後ちゃんと近衛隊に入隊したフィーデルは、ガレルのもとでみっちり修行しつつ頑張っている、ってのは兄上やダニエルからよく聞いている。

 修行はどっちかと言うと貴族家当主としての修行だそうで、そりゃ公爵領の代官だもんなあ。しっかり仕事できなきゃ、ガレルも困るもんな。


「ああ、それとロアール殿下からお祝いを預かってきてますです。お二人に直接って」

「殿下から?」


 そう言ってフィーデルは、手に持ってる封筒をダニエルに手渡した。この場に来るまでにボディチェックとか伝書蛇による魔法チェックとか受けてるはずだから、問題はないと思う……つーか遊び人殿下が何かやる気なら、自分で出てきそうだけどな。


「よくわからないが、ありがたいな。休暇が終わったら、お礼を申し上げないと」

「そうですわね。ご臨席いただけなかったのは残念ですが、任務でお忙しいのですから」


 そうなんだよね。招待状送るかどうか迷ったんで、ダニエルから直接聞いてもらったんだ。そしたら、ちょうど遠征任務があるとかで無理、と言われたんだっけ。つーてもまあ、フィーデルは遊び人殿下の名代じゃないよな。ガレルの名代、もしくは近衛隊代表としての参加だ。兄上は身内なんで除く。


「ダニエル様ののろけっぷり見て、いつまでも遊び人じゃまずいとかお考えになってるみたいですよ。殿下」

「え」


 マジか。伊達に遊び人殿下、なんて呼ばれてるわけじゃないんだぞあの殿下。……まあ、本命がいるわけでもないっぽいけどさ。

 まあ、王族ともなると本命と結婚できる可能性ってそう高くはないのか。相手が平民だったりすると、親とかはともかく親戚やら取り巻きの貴族がうるせえとか聞くし。聞くだけだけど……公爵家のヴァレッタでも、相手選び大変らしいからなあ。


「ついに遊び人殿下の称号を返上なさるか?」

「ですが、そうそう変われるものではないと思うのですが」

「俺もそう思いますよ。……ガレル様も、ですけど」


 とはいえ、ここらへんの意見はこの場にいる全員が一致した。ランディアとかも多分、同じ意見だろうな。

 つか、一応王族なんだから相手の条件厳しいだろうになあ。最低でも侯爵家レベル、じゃないかな。王族抜ける、とか言うなら話は別だけど。


「まあ、のんびり拝見させていただくさ。フィーデル、ひとまずお礼を申し上げておいてくれ、正式には後日直接申し上げるから」

「了解でっす。メイコール様とダニエル様は律儀なお方ですから、そこら辺心配しちゃいませんけどね」


 そうダニエルが言うと、フィーデルは軽く敬礼を返して離れていった。多分、ガッツリ飯食っていく気だろ。いや、そのための食事なんだからしっかり食っていけよな。俺もさっきからつついてるけど、クライズのシェフの腕は本物だからさ。

 そうして、一瞬二人きりになったときに。


「ナルハ」

「はい?」

「今日からもっと、幸せにするからな。覚悟しておけよ」

「……ええ、もちろん!」


 ダニエルはもう、何でそういうセリフをさらっと言えるかね。まったく。

 ありがとうよ。鳴火ごと、幸せになってやるからよ。

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