093.晴れの日

 貴族の家ってさ、それなりにお客さん入れることのできるホールがあるのな。クライズ家は侯爵家だから、結構すごいお客さん呼んだりするみたいでホールがでかい。学園の卒業パーティやってた会場とも遜色ねえよ。すごいな貴族……うちもだけど。

 だけど、気がついたらすっかり雲が減って青空、いい天気になってる。これなら話は別だ、ということでそのホールではなく、もっと広い庭を使ってダニエルと俺の結婚式は行われている。

 この国は太陽神信仰ってこともあり、青空の下で結婚式やるのはありふれたことだとか。……暑いときとか雨の日はさすがにやらねえけど。だからというか、天候のことも考えて料理とかはホールに揃えてあるんだよな、バイキング方式で。


「グラントールの子、ナルハよ。クライズの子ダニエルを伴侶とし、睦まじく寄り添うことを太陽神様に誓うか」

「誓います」

「クライズの子、ダニエルよ。グラントールの子ナルハを伴侶とし、睦まじく寄り添うことを太陽神様に誓うか」

「は、誓います」

「よろしい。我らが太陽神様よ、ご照覧あれ。今ここに、一組の男女の縁が結ばれたことをご報告申し上げる」


 太陽神様の神官さんに誓いの言葉を述べて、式次第はさっさか終了。どうせメインはこの後の披露宴と言う名の貴族同士の交流会兼飯、だしな。

 太陽神様、ここらへんはおおらからしく儀式に長々時間使うよりしっかり飯を食え、という教義だとか何とか。ほんまかいな。


「カンパーイ!」

『カンパーイ!』


 ま、教義はともかくめんどくさい挨拶もなしに、さっさと乾杯からの食事会に移行したのはありがたい。女の身体のせいかそんなに量は食えないんだけど、料理作る方もそれを見越してこじんまりとした盛り付けにしてくれるんで、ぼちぼちと頂いている。

 あーうめー、ただ肉はちょっと味が強めかな。血抜きしきれてないのと、それをカバーするために香辛料多めってところか。


「おめでとうございます、ダニエル様、ナルハ様」

「おめでとーございますー」


 あ、ランディアとポルカだ。もちろん、ちゃんと招待状出して来てもらったんだぞ。

 ヴァレッタにも出したんだけど、あっちはあっちでいろいろ忙しいとかでランディアがロザリッタ家名代、ということになってる。ので、ダニエル共々きちんとご挨拶しないとな。


「ありがとうございます。ランディア様、ポルカ様」

「やあ、ありがとう。二人とも来てくれて嬉しいよ……おっと、来てくださって光栄、の方がよろしいかな」

「お気になさらず。まだわたくし、シャナキュラスですから」


 肩をすくめただけで、ランディアがすねたりそっぽ向いたりすることはない。いろいろあって、彼女も吹っ切れたんだろうなあ……いやほんと、保護してくれたヴァレッタとロザリッタ家には感謝。


「ところで、アリッサ様がおられないようですが」

「あら」


 ランディアの指摘に、やっと気がついた。いや、ダニエルがずっとそばにいるんで浮かれてるせいかな。言われてみればアリッサ……というか兄上やゲイルもいねえや。マルカは視界の端で、せっせと肉食ってるのが見えてるんだけど。


「どうした? ナルハ」

「アリッサと兄上を、先ほどからみかけないのですけれど」

「……そうだねえ」


 ダニエルやポルカと一緒に、ぐるりと周囲を見回す。うん、いねえわ。少なくとも、俺から見える範囲には。いや、人そこそこ多いから見えてないだけかもしれないけどさ。


「挨拶回りにでも行っているんじゃないかな。君は動けないからね」

「そうかもしれませんね」

「今後のお付き合い、大事ですからねー」


 ま、ダニエルやポルカがそういうんなら、そういうことにしとくか。なにか厄介事が起きていて俺のところまで来ないんなら、それはそこで解決できる問題ってことだし。多分、物理的に終わらせることができるやつ。カチコミとか。


「やあ、ダニエル、ナルハ」


 と、一番物理的に解決しそうな人が来た。具体的に言うと兄上、である。ゲイルはいないので、やっぱり何かやってたんだろうなあ。


「兄上」

「メイコール様」

「ああ、君たちも来ていたのか。ゆっくりしていってくれよ? ナルハの大事なお客様なんだからね」

「はーい、ゆっくり楽しませていただきますですー」


 ランディアにも普通に対処してるのは、さすがにダニエルを諦めたのが露骨に見えてきてるからみたいだな。以前みたいに腕絡めたりしてねえし……いや、結婚式で新郎にそれやったらまずいだろいくら何でも。しかも今日は公爵家の名代だしな、ランディア。


「……メイコール。外に『お客人』でも来ておられたかな」

「招待状をお出ししていない方々だったので、丁・重・に、お引き取りいただいたよ」

「……考えないことにするよ。後始末はしてくれたのかな?」

「今ゲイルとアリッサが片付けてくれてるよ。衛兵隊が到着次第引き渡すことになってる」


 おいおいダニエルと兄上、こっそり話ししてても聞こえるぞー! やっぱり物理的に解決する問題起きてたんじゃねえか!

 ……乱入されなかっただけ、よしとするかあ。

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